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 これは、紅葉が幼稚園にあがった年の夏の話です。元々古かったクーラーが壊れてしまい、新品のそれも明日取り付けにくるという今日。扇風機1台だけでは暑さをしのぐにはもの足りず、2人は汗をダラダラかいて床に倒れていた。



「あぅぅぅー…わかちゃ、あちゅいのー」

「あ゙ーホンマ、なんでこないなときにクーラー壊れるんや…!」

「わかた、わかちゃあ…」

「っ…そうや!こうゆうときこそ水風呂やんなっ」

「う?みじゅぶろーっ」



 若葉はまだいい。しかしまだ幼い紅葉にこの灼熱は地獄であり、熱中症などの危険も出てくる。切なそうに名前を呼ぶ紅葉を見かね、若葉は考えに考え、水風呂という案を思いついた。

 さっそくお風呂場に向かい、浴槽へ水を溜める。冷水にならないよう気をつけ、紅葉には幼稚園で着ている水着に着替えさせた。



「わかちゃ、プール、ないよ?」

「ちっちゃいけど今日は風呂場がプールやでー」
「おふろ、あついあついの」

「っ…ああもうかわええ!なんやその仕草っ!」



 あついのいやいや、と首を振る紅葉に悶える若葉。まだぷにっとした体つきをしているためか、水着姿もなんかもう、とにかく可愛いのだ。汗でしっとり濡れた紅葉の髪を撫で、若葉は浴槽へ紅葉を入れてあげた。

 ひや、とした水が足の先をかすめ、紅葉は思わず足を引っ込める。



「ぴゃああ、わかちゃ、おみじゅなのーっ」

「はは、冷たかったか。でもプールと同じやろ?ほら足伸ばしてみぃ」

「ぅ、う…ん、ちゅめたい…ふわ、おふろちゅめたいよっ」

「く…っ、ちょお待ち、カメラ取ってくるわ…!」

(防水やないけどもうエエやろ!)



 どうして、どうして?とキラキラした目で見上げてくる紅葉に、若葉は口元を押さえて慌ててリビングへ戻った。むわ、と熱気が襲い、若葉はアチーアチーいいながらカメラを手に、浴室へ戻る。

 ピチャピチャ、と水面を楽しげに叩く紅葉を見つけ、まずは2・3枚ほど写真を撮った。



「わかちゃ、いっしょ、はいる?あそぼぉっ」

「んーそうしたいんは山々なんやけど、また今度でっかいプールいったときな。ちゃんとワイはおるから」

「ぶぅ…わかちゃ、いじわるなの」

「も、紅葉!?」



 洗い場にイスを置いて座った若葉を誘う紅葉だが、さすがに若葉まで入ることは不可能だ。だから、断った…が、ぷい、とそっぽを向いてしまった紅葉に、若葉は非常に慌てた。


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