Oh,my honey!! / 佐助



踵を一つ翻し、ねぇほら今すぐあの子のもとへ。








「稀有様。」

「お帰り、佐助。」

屋敷の、とある一角の主の部屋。
ゆらゆらと陽炎の様に揺れる蝋燭を手元に、
稀有様は文机に向かっていた。
まったく、旦那にも見習ってほしいものだよ。
音一つたてずに背後に現れても、
彼女は驚くことはない。
何でも、俺様限定でわかるんだとか。
や、嬉しいけど。
嬉しいけど、忍としてはちょっと
複雑だったりするんだな、これが。

「で、状況は。」

筆を置くと振り返り、
穏やかな口調で尋ねられた。
口元は笑っているが、
目はまったく笑っていない。

「はい。
伊達軍は進路を小田原に切り替え、
今だ進撃中です。
風の噂では、豊富秀吉が一人で
加賀の前田領へ向かったものの侵略はせず、
前田は現状として中立の立場をとっています。
北条氏政は篭城を決め込み、
風魔小太郎を雇っている模様です。
それと、上杉軍で前田慶次の姿が
目撃されています。」

「うん、ご苦労様。」

聞き終えると、稀有様は
にぱっと笑みを浮かべる。
或る意味、大将や旦那に報告をするよりも
恐ろしさを覚えるね、俺様は。

「暴れ竜に覇王に伝説の忍、
さらには前田の風来坊かー。
いいね、楽しくなってきた!」

「……ちょいと、稀有様?」

「特に暴れ竜は、幸が認めたやつだからね。
あー、一回手合わせしてみたいなー!」

……始まった。
稀有様(と旦那と大将)の悪い癖だよ。
より強い相手とやり合いたいなんて。

「よし、佐助!
ちょっと、武田道場に行ってくる!!」

「…え?」

今日は天狐仮面はきてるかなー、っておいおい。
勘弁してくれ!あれ、俺様なの!!
しかもめちゃめちゃ疲れるの!!
(なんて言えるわけねぇよ!!)

「はーぁ…。」

相変わらずな主に思わずため息。
まあ、この人の人生の三大欲求は
闘る!食う!寝る!だからな…。

「忍遣いの荒いこって…とほほ。」

俺様の淡い恋心に、彼女が気付くのは
何時の日か。





Oh,my honey!!
(もう少しだけこのままで、って奴?……はぁ。)


<後書き>
正直、我慢の限界なんだけどな。




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