ふた恋めぐり / 3Z土方


なぁ 稀有
俺には 懐かしいものが沢山あんだよ
放課後の淋しい感じとか
寄り道したコンビニで買ったアイスとか
一緒に通った通学路に
夜中 こっそり家を抜け出して
会った夜の公園
雨の日の校舎の匂いに
一緒にサボって見上げた青空
俺たちは まだ子供で
稀有を守ってやることも出来ない子供で
…なぁ 稀有 それでもわかってほしい
お前と過ごした毎日は
何時だって泣けそうなくらい 幸せだった






「……本当に、いいのか。」

「うん。……もう、決めたから。」

電話越しの優しい先生の声。
酸素マスクを取って、持つ時間は約5分。
もう、半分は過ぎちゃったかな。

「土方は、知ってるのか。このこと。」

「……話し、て、ないよ。」

彼は優しいから、
きっと毎日会いに来てくれると思う。
恋仲だなんてそんなに素敵で
甘い関係ではないけれど、
何故かそんな感じがするんだ。

「…好きなんだろ、あいつが。」

「……うん。」

「多分あいつも、……な。」

「…どうかな。」

それでも、ううん、
だから伝えたくないの。
彼の負担には、絶対になりたくないから。

「ねぇ、先生。」

「……。」

「私ね、初めて恋をしてるの。」

「……そか。」

「だからね、先生。
私、今とても幸せよ?」

例えこのまま死んでしまっても、
悲しいけれど大丈夫。
本当は大好きですって言いたいけど、
それだけは出来ないから。

「……もう、四分過ぎた。」

「そか…じゃ、もう止めなきゃだね。」

微かに息苦しさを感じながら、
それでも受話器を離さなかった。
死んでいいなんて、ほんとは嘘。
まだ、ねぇ先生、彼の隣で、
まだ生きていたいよ。

「……銀八先生が先生で、ほんとによかった。」

「馬ー鹿。柄にもねぇこと
言ってんじゃねぇよ。」

「……ありがとう。」

「待っててやるから、さっさと治して、
とっとと戻ってこい。
そしたらいきなり修学旅行だからな。
体力つけとけよ?」

ねぇ、先生。
そんなに気を使わなくて大丈夫だよ?
私より長く生きてきた先生だもん。
私が助からないことくらいわかるはず。

「うん……じゃあ。」

「嗚呼、じゃ。」

そうして受話器をもとの位置に戻す。
涙が静かに頬を伝う。
先生のことは大好きだけど、
やっぱり最後はトシの声が
聞きたかったな、なんてね。

「……大好きだよ、トシ。」



ふた恋めぐり
(初めて、恐怖を覚えました。)
(それでも最後は、笑っていたいから。)


<後書き>
私の分まで、貴方が幸せになりますように。




[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!