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どう足掻いても、絶望


世界は終わろうとしていた。

いや、ひょっとすると、名前が自覚するずっと前から世界は崩壊していたのかもしれない。


この男、藍染惣右介と初めて顔を合わせたその日から。



「さあ、おいで」



優しい、それこそ世界を死に至らしめた者とは思えないほど柔らかい微笑を浮かべながら藍染はそう言った。

しかし、実際は名前に向かって差し伸べられた手はそこから滴り落ちるほど赤く、もう拭うことすらも煩わしくなるほど濡れていた。


その手が今、壊れゆく世界から唯一逃れられる場所へ名前を導こうとしている。

名前にはこの上ない屈辱的に思えた。



「行きません」



覚悟を決めた、芯の強い声。

もう草木も残っていない大地が嘲笑うかのように揺れたが、名前の声も足も震えることはなかった。



「世界を、大切な人を奪ったあなたに付いていきたくなんてありません。あなたは、ただ私があなたを愛せばいいと、そうすれば生かしておいてくれると言いましたが、私はあなたを一生愛したりなんかしません。あなたを愛するくらいなら、死んだ方がましです」



名前が言い終わるや否や、藍染は堪えきれなくなったように口を開き、そして大声で笑いだした。

一頻り笑うと、藍染はまだ余韻の残る唇でこう言った。



「私はね、君の意見なんてどうでもいいんだよ。君はただ私の側で、その射殺されそうな瞳をしてくれればいい」



心底愛しいとでも言いたげな声色が恐ろしい。
憎しみも恨みも、考えさせてはくれないほどの恐怖が名前を飲み込んでいく。


藍染の端正な顔が耳元に近付いてくる。




「死ぬなんて逃げ道があるはずないだろう?」



藍染の唇が己のそれに当たる感触の中で、名前は確かに自分が闇の中へ堕ちていくのを感じた。





(どう足掻いても、絶望)



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