楽園は堕落した
「我についてきたくば、全てを捨てるが賢明よ」
ヒヒ と意地悪く笑われる。
その笑みはどこか嘲笑しているようでいて、明確な期待を含んでいた。
私が全てを捨てて彼のモノになることを望んでいるのだ。
賢明だと言うのは、彼が私と自分以外の人間とが繋がっていることを好まないから。
友人が大事だと思うならば、自ら捨てろと言っているのだ。
「すまぬなぁ……。我はどうやら主を独占したいらしい」
また彼が笑う。
独占したいからといって人を殺めたりするだろうか。
狂人。
その言葉が相応しいのかもしれない。
しかし、その狂人に愛されたいと思う私自身も、きっと狂人なのだろう。
大谷さんの包帯で包まれた腕が私の頬を撫でる。
程なくして重なった唇は、狂気にしては柔らかい感触をしていた。
(楽園は堕落した)
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