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ロシアより愛をこめて


「イワン、好きよ」


そう言われたとき、自分はなんと返しただろうか。言われたのは前日だというのに、もう思い出せなかった。

いや、もしかしたら何も言わなかったのかもしれない。無いものを思い出せないのは至極当然のことだ。
そう考えると、名前が好意を示してくれたのも夢なのではないかとすら思う。

その場合は、やけに鮮明な夢ということになるが。


だが、好きだの何だのと、名前もくだらぬことを言う。そんな一瞬のまやかしに流されてものを言うなど。もっと彼女は利口だと思っていた。

馬鹿馬鹿しい。
イワンはモスクワ行きの列車の中でひとり息を吐いた。


(しかし……)


馬鹿馬鹿しいと思いつつ、この胸に感じる高鳴りは一体何なのだろうか。

かき乱されるといえばそうなのだが、決して不快ではない。


まあ、いいだろう。
モスクワにつけば気分も変わる。
あの父と兄にも、もう縛られることはない。



イワンを乗せた列車はひた走る。
どうか、この若者の旅に幸多からんことを。




(ロシアより愛を込めて)

またやってしまった…!

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