[携帯モード] [URL送信]
世界の終焉を待っている


「ひとつだけ、私の願いを聞いていただけませんか?」



すがるような声が低く名前の耳へ滑り込んだ。

狂おしいまでの熱を帯びた瞳は名前だけを映し、他の何をも映してはいない。


天海の冷たい手が頬に触れる。
幾度となくそこを滑る指は、まるで彼女が存在していることを確かめているかのようだった。



「全てを、捨ててください」



口元が隠されていたせいで、彼がどんな表情を浮かべているのか、はっきりとは分からなかった。

しかし、彼の声自体はしっかりとしていて、確かな強さがあった。

冗談でも何でもない。
本当に、彼が望むただひとつの願いなのだ。



「全てを失って、私だけにすがってはもらえませんか」



互いが互いの全てになるように。たったひとつの世界に、頼りきりになるように。




「貴女を失っては……生きている意味がありません」



弱々しく微笑む天海の瞳の奥には、確かに青白い業火が揺れていた。



名前は頷いたのだろうか。
どちらにせよ、もう戻れはしない。




(世界の終焉を待っている)



[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!