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ねえダーリン


「真一、重い」

「お前が捕まえてみろって言ったんだろ。自業自得だ」



名前の抗議をぴしゃりとたしなめると、千秋は背後から名前を抱き締めている腕に力を込めた。


少し前、突然「私、足には自信あるから、真一には捕まらないよ」と言い出したときは頭痛を覚えずにはいられなかったが、結局それに付き合っている自分は相当彼女に甘い。

自分自身のそんなところにうんざりしつつ、千秋は腕の中の名前に視線を移した。

今は背後からの重さに眉をしかめてはいるものの、比較的大人しく自分に身を預けている。

いつもこう大人しいと苦労も少ないのだが。



名前はどことなく危なっかしく、目が離せない。

しかしその割にすばしっこく、すぐどこかへ行ってしまう。


こちらの気も知らず、呑気なものだ。

自分ばかりが必死に彼女を追いかけているようで癪に障る。



だから今は、逃がしてやらない。

いや、今だけでなく、ずっと逃がしてやるつもりはないのだが。



(俺のことだけに必死になってろ)



そう思いながら、千秋はまた何も知らない名前の背に体重を乗せた。





「なえダーリン、世の中にはセックスに過剰になにかを求める悲しい人たちが多すぎるわ。何かを見失っているのよ。愛、愛だけが幸福を運んでくるのにね」
「そうさハニー、それを教えてくれたのが君さ」
――岡崎京子『3つ数えろ』より




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あきゅろす。
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