胡蝶之夢
……この頃、よく夢を見るのだ。
その夢は、現実とほとんど変わらぬ。
夢の中でも儂は曹孟徳で、相も変わらず世は乱れ、儂を慕う者たちが側にいる。
しかし、現実とただひとつ違うのは……愛する妻のそなたがいないことだ。
儂がそなたの名を呼んでも、そなたはその笑顔と共に駆けてきてはくれぬ。
それどころか、皆に聞いてもそなたを知らぬと言うのだ。
……儂は恐れているのだ。
もしかしたら、そなたのいない“夢”が本当は“現実”なのではないかと。
そなたのいない世界など、無意味も同じ。
覇道を歩む儂の隣は、そなたが歩まなくてはならぬのだ。
……くだらぬ話をしたな。
そなたがいないなど、文字通りの愚考であったな。
しかし、そなたのいない世界に投げ出されたら、きっと儂は気が狂ってしまう。
どうか、儂の前から消えてくれるな。
儂の隣は、そなたしか歩けぬのだからな。
(胡蝶之夢)
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