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愚かな若者に祝福を


「嗚呼、名前・苗字! どうか僕に全てを預けてくれないか。幸せになれる保証などどこにもありはしないけれど、もしかすると、悪魔の所業かも知れぬと疑いたくなるほど不幸に見舞われるかもしれないけれど、それでも僕に生涯変わらぬ愛を誓わせてはくれないか。名前・苗字、結婚しよう。どうか僕と結婚して、僕を生涯支えてはくれないか」



出し抜けに頭に浮かんできたその台詞を、アリョーシャはうっかり口にしてしまいそうになった。

もし、彼が咄嗟に機転を聞かせてティーカップに口をつけなければ、この恥も外聞もない戯言を吐いて、この戯言が当の本人の知ることとなってしまっていただろう。

アリョーシャは間一髪でそれを逃れたことに心の底から安堵した。



そうだ、自分がこれを言って何になると言うのだ。

ただ名前を困らせるだけではないか。今まで友人だと思っていた男に急に結婚を迫られるだなんて。


これを万が一にでも口にしたら、彼女はきっとその美しい眉を下げて困ったような表情を浮かべるだろう。


アリョーシャにはそれが怖かった。
彼女が困ったような顔をすると、いつも背筋がゾクリと粟立って、自分が自分でなくなる気がした。
もっともっと困らせて、どうにもできない袋小路に追い込んでしまいたくなるのだ。



「アリョーシャ、どうかしたの?」



ティーカップに口をつけたきり、動かなくなってしまったアリョーシャを心配した名前の声が耳を打つ。

我に返ったアリョーシャが名前の方を見ると、不思議そうな顔の彼女と視線が絡み合った。



「あの……。いえ、やっぱり何でもありません」



またあの馬鹿げたことを口走りそうになっていた。

今日の自分はやはりどこかおかしい。もうこれ以上口を開くのは得策ではないかもしれない。


アリョーシャはこの得体の知れぬ熱に浮かされた胸の内を悟られまいとして、何事もなかったように微笑んだ。




(この愚かな若者に祝福を)



知ってる人はいるのでしょうか……

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