それは鮮血の赤い華
「──其処で何してる…お前」
月明かり、辺りを白銀に照らし
揺れる男の黒い髪も艶を増した
地に散らばるは斬って間も無い"天人"と呼ばれる者達の無残な姿
夜だと云うのに、地面を染める血はその色をよく眼に映させた
男の着物や肌にもそれは無数に付着している
男の様子から察するに、それは全て彼等の返り血なのだろう
刀を構えた儘の男の視線の先には、天人の死体と鮮血に囲まれる様にして居る"彼女"の姿
「…さっさと失せろ」
不機嫌そうに刀の血を拭い落とし、男は彼女に言葉を放つ
しかし彼女は立ち去る様子を微塵も見せなかった
寧ろ逆に、彼女は男に近付いたのだった
「……聞こえなかったか、餓鬼
俺の前から消えろ」
男は血の匂いが漂う刀の切先を彼女に向け、睨み付けた
それでも彼女は怯む様子が無く、男は舌打ちを一つ
「怖がらねぇのか、刀を」
男の瞳が光る
赤い、血の様に真赤な瞳が
切先を彼女から離し、それを転がる天人の首に何の躊躇いも無く刀を突き刺した
血が舞い、再び刀が赤に染まる
「人を殺す道具だ
俺が斬れば、お前も…死ぬぞ」
「──知ってる」
か細い、弱々しい女の声が響いた
初めて聞いたその彼女の声に、心臓が痛くなる程鼓動が高鳴った
女は血の付いた男の刀に触れた
ぴちゃ、と粘着質な水音が耳に届く
男は女の行動に眉を寄せた
「怖くねぇのか」
「何が?」
「……ぁあ?」
「死ぬ事が? 刀が? 血が?
それとも──貴方が?」
「──…」
男は眼を見開いた
今迄、色々な者と出会ったが、こんな女は初めてだった
「怖いとは思わないよ」
「──へぇ」
「私が怖いと思うのは、"独り"…」
「…身寄りは無いのか」
「無いよ」
皆殺されちゃったから、とアンバランスな微笑み
「──俺と、来るか…餓鬼」
「行く
…ガキじゃないけど」
「充分餓鬼だ」
刀を鞘に納め、踵を返した
女が男の艶やかな着物の袖を掴む
男は煙管を銜えて、静かに口端を吊り上げた
「餓鬼、名は?
俺は高杉──高杉晋助だ」
ふわりと、甘い香が夜空に舞った
◆◇◆◇
これ何て剣ちゃんとやっちー…
06/08/08
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