矛盾の愛しさ
全て終わって、私が歪みの国に行く事は無くなってしまった
もう皆に会えないのかと思うと、散々怖い目に遭わされたけど名残惜しい
あの世界にも住人達にも、申し訳無い気持ちと哀しい思いとで涙が出てきてしまう
「何を泣いているんだい、アリス」
首だけのチェシャ猫が、私に話し掛けてくる
──彼だけは、まだ私の前に居てくれる
「…私、色んなもの無くしちゃったなって思って」
「そうかい?」
「あの世界の皆──
雪乃も…親友だったんだよ…大好きだったのに……
それに──」
真新しい涙と共に浮かんできたのは、豪快で、私に対してちょっと(…かなり、かも?)きつくって、ぶっきら棒で、怒りっぽくて……
でも、本当は優しくて…雪乃みたいに──シロウサギみたいに──私の傍に居てくれた、アノ人の顔
私の歪みを吸い続け狂ってしまったシロウサギの──あの世界の歪みと狂気の全てを吸い取って…そして──
「…大好きな人なのに…どうしてかなぁ…名前、思い出せないの──」
いつか、アノ人の記憶も、対するこの想いも思い出せなくなって──消えてしまうのだろうか
顔を伏せてしまった私に、チェシャ猫はごろごろと転がりながら寄り添ってきてくれた
(アノ人が…肩を抱き寄せてくれたらいいのに──)
チェシャ猫には悪いけれど、そんな事を考えながら、私はあの愛しい人の温もりを求めて、近く訪れるであろう微睡みに身を任せた
◆
アノ人 = 夢主
06/11/14
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