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悩める天秤
 
「グリン」

  俺の名を呼ぶ
     その声が 愛しい

「今日、暑いね」
「そーだなぁ
 でもよぉ、水に入ってない俺はもっと暑いんだよ」

じゃあグリンも入ればいいじゃん、なんて笑う彼女
その外見は俺と殆ど変わらない、十六・七くらい
でも彼女は、ティトォ達が不老不死の身体になる以前からの知り合いだった
百年前に滅んだ、ドーマローラの生き残り
──まぁ、そう云う俺も、もうとっくに貫禄過ぎなんだけど
俺は天然の魔法使い
二つの魔法を使えるけれど、「時」の魔法は、絶対に使っちゃいけなかった
使ってしまえば、俺は永い夢に堕ちてしまう
その間、俺は時間の流れから追い出されて…歳を取らない
──三十年の時は、予想以上に重くのしかかった
それでもティトォ達は、俺を受け入れてくれた
彼女もまた、笑顔で迎えてくれた

「グリン」

彼女の声が響く
その音色は俺を揺らし、心地好い快楽をもたらした

「ん、どした?
 ──うわっ!!」

振り向いた俺を襲ったのは、冷たい湖の水
くすくす笑う彼女の悪戯な表情が、俺の心を擽った

「やったな、このやろっ」

服を着たまま湖に飛び込み、お返しだと云わんばかりに水を彼女に掛けまくった
負けじと彼女も水を跳ねさせる

──友達を裏切る事なんて出来ない

俺は、ティトォも彼女を好きな事を知ってる

──だから、この気持ちは隠し通す

──だからせめて、この瞬間だけは──…

◆◇◆◇

友情と愛情、天秤になんか掛けたくないのに
少年の心は、揺れる 揺れる──

06/05/26

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