捕食者と優雅なる憂鬱03
※憂鬱02続編
◆
「はい、熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます」
湯飲みの一つを手渡し、僕は彼女の向かいの椅子に再び腰掛けた
湯飲みのお茶を見つめている彼女を暫く観察してみたが、そのままぼんやりしているままだ
どうしたの、と尋ねる。彼女は夢から醒めたようにはっとしてから、すみません、と頭を垂れた
そのまま言葉を探している彼女の、さらさらと流れた髪の隙間から首筋が覗く
「派手にやられたね」
僕は自分の首を親指でちょいちょいと示しながら、彼女に言った
彼女は反射的に、その箇所を押さえる
白い肌に映える、赤黒い傷跡を
「気に入られているんだよ」
「え?」
「あの人はね、首、噛むんだよ。気に入った人の
そう云う癖があるんだ」
そう言って湯飲みに口を付けた
飲めなくはないが、まだ熱い。あ、メガネ曇った
「…大蛇丸様は」
「うん?」
「どうして…私を」
俯いたまま言葉を漏らす
私を、の続きは何だろうか。"拾ったの"か? "気に入ったの"か?
──彼女は以前は兄と暮らしていた。その兄が亡くなり、途方に暮れ泣いていた所を、偶然その場を通りかかった大蛇丸様に拾われた
「一目惚れじゃない?」
「まさか。やだなぁ兄さん」
やっと彼女は顔を上げてクスクスと笑う
拾われて此処に来た当初から、彼女は時折、僕を"兄さん"と呼んだ
大蛇丸様から"安全牌"の称号を頂いてから、彼女からそう呼ばれる度に胸の奥で何かが詰まるような感覚がするようになった
これでは大蛇丸様の思惑通りなんだろうな、とも思う。だからあんな事を言ったのだろう
「…私」
暫くそのまま他愛も無い冗談を言い合っていたが、ふと表情を曇らせて彼女が言葉を溢す
「この前、大蛇丸様を殺そうとしたんです」
僕は僅かに体が強張ったのを感じた
その話は丁度、当人から今朝に聞かされた
にこにこしながら何を話すかと思えば、「あの子に殺されそうになった」と言い出したのだ
「私、大蛇丸様もカブトさんも他の人達も、皆好きです
本当に感謝してるし、ずっと此処に居たいって思ってたんです
……でも、…あの人が、怖くなったんです。…ううん、本当は最初から怖かった。ただ、突然、急に、気付いたんです
それで、逃げなくちゃって思って、でも逃げられないと分かってたから、だから」
「だから…殺そうとした?」
「……はい」
恐らくは無意識だろう、彼女は首筋の傷に手を当てる
「…何処を、狙った?」
「首、を」
──ああ、そうか、だから
「…ふ」
「え?」
大蛇丸様は
「ふ、くくっ、ッあははははは!!」
あんな風に、笑っていたんだ
僕が突然笑い出して、彼女は混乱した様子でおろおろとしていた。まあ、当然の反応だろう
しかし、笑ってしまうのは仕方の無い事だ
だって──彼女は、同じ事をしたのだ
大蛇丸様が、彼女の兄を殺した時と、同じ事を
あの日──
大蛇丸様は寝ている彼女の兄の首を、クナイで切り裂いた
そして偶然を装い彼女の前に現れ、言ったのだ
「今日からお前は、私のモノよ」と
腹を抱えて笑う僕に未だ困惑する彼女に、僕は何とか息を調え、言葉を掛ける
その意味を、今は分からなくてもいい。しかしその内に、嫌でも理解するだろう
「偶然なんて──ありはしないよ」
彼女は逃げられない
飢えた貪欲な捕食者に、選ばれてしまったのだから
◆◇◆◇
イミフ…(ちょっ)
最初はただ…保護者なカブトさんの苦悩を書きたかっただけなんだ…しかしどちらかと言えばこれは
「ナンセンス!」
大蛇丸しゃまが一目惚れしたよって云う話になってしまった
そしてヤンデレ(うん、違うか)
09/07/20
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