捕食者と優雅なる憂鬱02 ※憂鬱01続編 ◆ それがいつだったのか、何の話をしていたのか、僕には思い出せない そんな些細な、ふとした瞬間だ。大蛇丸様が「お前なら安心ね」と呟いたのは 「……はい?」 「ああ…いえ、違うわね "安全ね"の方が正しいわ」 「…?」 「お前は腕が立つし頭も冴えてるわ。教え方も上手いようだし、これといった欠点も無いわね」 「はあ、ありがとうございます」 教え方? 一瞬何の事か分からなかった しかし、そういえば彼女に勉強やら忍術やら体術を教えていたっけな、と思い出した それはもう日常の動作になっていて、特別目を向けるようなものではなかった つい気の抜けた返事をしてしまったが、大蛇丸様は別段気にした様子は無い 「でもねぇ、恋人には欲しくないわね」 「…は?」 「だって貴方、つまらないもの どんなに懐かれて好かれても、精々"いい保護者"止まりだわ」 絶句した。その自覚があったからだ もし忍でなかったら、平凡な生活を送る平凡な人間だっただろうなと想像していた 夢も目標も使命も無い、ただぼんやりとした面白実のない自分と、その人生を そんな自分の隣に誰か寄り添うなんて事は有り得ないだろう、とも思っていた ──そして確かに以前、彼女に「カブトさん、お兄ちゃんみたい」と言われた事があった 「恋に落ちるなんて有りっこないって事よ だから、"安全"なの。アンパイなのよ」 "お兄ちゃんみたい" その時は素直に喜んだ。が──ああ、そう云う意味だったのか 彼女がそのつもりで言ったのではないとしても、しかし突き詰めればそう云う事なのだろう 彼女の事と僕の男としての魅力の無さについて、珍しく上機嫌で話す大蛇丸様の傍らで、僕は静かに溜め息を吐いた ◆ 09/07/12 [*前へ][次へ#] |