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大人の色気



「ちわーっす!阿近さんいますか?」

「阿近なら研究室だぜ」

「ありがとうございます、鵯州さん」


顕微鏡を覗いたままの鵯州さんにお礼を言って、歩き慣れ始めた技術開発局の中を進んでいく。歩き慣れたと言っても阿近さんの研究室までの道程なのだが。
阿近に教えて貰った一番安全で最短な道程の途中には怪しげな薬品棚や檻に入った奇妙な動物等が沢山あることはあるが、これでも一番マシだとあの阿近さんが言うのだから、興味本意で道を反らす真似はしない。
見えてきた研究室の扉に早る気持ちを抑えてノックをすれば低音の声が返って来る。

「入れ」

「こんちは、阿近さん」


研究室に踏み入れば薬品と阿近さんが吸う独特の煙草の匂い。
ちょうど一服中だったのか窓際に寄りかかる様に立っている阿近さん、ちょっとヨレヨレになった白衣と目元に浮かんだ薄い隈、この様子じゃ長い間研究室に隠りっぱなしだと検討がついて苦笑が漏れる。


「また一週間は家に帰ってないだろ阿近さん」

「まぁな」

「倒れても知らねーぞ」

「なんだ?心配してくれてんのか?」


紫煙を吐き出し笑いながら言う阿近に、悪いかよ。と返せばまた愉快そうに笑う。なんて銘柄か分からないけど、細長い煙草が阿近さんに似合っていて、こんな時はどうしようもなく胸がざわつく。


「(無駄にかっこいいんだよな、この人は‥)」


低音もくつくつと笑う声も指先も仕草も、全部が自分にはない大人の雰囲気を持っている。
そんな事をぼんやりと思っていたから阿近さんがこちらを見て笑みを深めたのに気付けなかった。


「一護」

「なに?」

「こっちに来い」


ちょいちょいと指で呼ばれ何も考えずに近付けば、急に唇を塞がれ甘くて苦い味が口内に拡がった。


「んっ、んん!」

「自覚なく誘うなって何度も言ってんだろーが」

「っ、はっ‥」


誘った覚えなどない。と言いたいけど貪る様な深い口付けに言葉に出来ない。
息苦しくて白衣を掴めば、より一層深くなる口付け。苦しんでるのが分かっているのにさらに意地が悪い事をする大人。

阿近さんには一生勝てない気がする‥






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