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ガタガタと壁に身体をぶつけ落下していく尚子を空中で抱き留めたのは、俊也だった。
桂は、隣の建物の屋根裏で待機している。

「はっ放してよ!」

じたじたと手足を動かし離れようとするも、俊也はそれを許さない。

「じっとしてろ! 落ちるっつの!」

尚子を押さえ込み、抱え込んでいた俊也は、今、隣の建物と池田屋の間で止まっていた。

「尚子……これからおれと桂先生は潜伏する。知ってると思うけど、桂先生はこの後長州征伐が出たのちも生き延びなきゃならねえ」

「…………」

何か言い返したいが口を抑えられていて喋る事ができない。

「だから、あんたも来い」

「?!」

尚子は無理矢理俊也の手をどかした。

「私はっ、新選組隊士だ!」

「あんたもいい加減目ェ覚ませよ。生き延びる為には、倒幕側につくのが一番安全なんだ」

「でも……っ」

自分は、新選組のみんなと──彼らと生き延びなければ意味がない。

「私は……私は新選組のみんなと生き残るって、もう覚悟を決めたの!」

「おいっ」

尚子はそのまま俊也の腕を振り払い、地面に着地した。

「そりゃ無理だぜ、尚子。冷静になって今までの事考えてみろよ。あんたやおれがどんなに動いた所で歴史は変わってねえだろ。むしろおれ達が動けば動く程、あるべき歴史に近づくようになってるんだ」

「そんなの、絶対そうなるかなんて最後まで分からない!」

「絶対そうなるんだよ! 仮にズレたとしても、おれが、正しい方へ歴史を導く!」

「じゃあ、私は逆に変えてやる! 絶対に日本を侍の国のままにしてみせる!」

俊也は、ハッと溜め息をつくと、建物の間を掛け登り、桂のもとへと着地した。屋根の上から、俊也は再び尚子を見下ろす。

「おれはあんたと敵対したい訳じゃないんだよ。また誘いに来る!」

「ま……待てっ!」

尚子も同じようにはい上がろうとするが、到底無理であった。

「待て……!」

壁にうなだれる。
駄目だ。自分は何もできない。いつだってそうだ。
結局、自分は何もできない。



──と、その時。

「だぁああッ!!」

側の茂みから、刀を振りかざした男が飛び出した。

「!」

刀──。刀は。
そうだ、先刻窓から落ちた際に手放してしまったのだ。すぐに向こう側に落ちている自分の刀を見つける事ができたが、今取りに行くには無理がある。


(や、やられる……!)


ぎゅっと目を瞑った。
が。


────キィン!!


刀の飛ぶ音がした。
そして次に、ドサリと男の倒れる音が続いた。


(た、助かった……?)





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あきゅろす。
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