G
――初めて、じゃないだろうか。
彼から尚子への、労いの言葉。そして、ようやく認めてくれたのでは、という確かな実感。
(うれしいかも……)
何か熱い物が尚子の胸の内で膨れ上がるのを感じた。
「――歳三さん!」
そのまま歩いていこうとする彼の背中を呼び止める。
「私――」
何か、を――伝えたかったんだと思う。
土方がそこまで深く考えて、言ってくれたのではないのかもしれない。それでもいい。そうだとしても、自分は嬉しかったのだ、と。この、「嬉しい」というだけで表すには勿体無いような、正体のまだまだ不明瞭なこの熱い思いを、ぶつけたくなったんだと思う。
「私――、これからも頑張りますから!」
結局口にしたのは簡単な言葉だった。
けど、それが、今、自分が彼に伝えられる最も明確な言葉だった。
土方はふっと笑った――気がした。
真実はどうだったのか分からないが、「気がした」、それで、尚子は満足だった。
「おれの事は、副長、もしくは、土方と呼ぶように」
「はい」
ぺこりと頭を下げると、尚子は屯所に向かって走り出した。
土方を追い抜く瞬間、そっと袂が触れた。
元冶元年、春。
うららかな日の事だった。
〔完〕
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