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(そう言えば、こんなだった)


ふと尚子は考える。
昔、美佳と同い年で、同じ制服を着ていたあの頃。自分達は毎日こんな下らない話ばかりして、過ぎ往く日々をただただ何となくこなして生きていた。


「……じゃあ、美佳は?」

「え、何?」

「美佳は好きな人とか、居るの? 私ばっかり話すんじゃ不公平でしょ」


まるで現代の女子高生に戻った気分だった。
以前自分達は、よくこうやってお互いをつつきあって、今それぞれが熱中している事や、流行りの服、見つけた喫茶店の事なんかを話していた。お互いの考えや情報を毎日のように享受しあっていたのだ。
とても幸せな一時を、まるで当たり前のように、むしろ退屈だとも錯覚しながら過ごしていた。
こうして数年越しにめぐり会う事が出来た奇跡に、感謝する必要もなかった。


「居るわよ」

「え」

「好きな人」


美佳が極めてボソリと呟いた。


「え……え────っ!! 何、誰? どんな人?」

「すごく、お人好し……かな。優しい人なの」

美佳はほんのり頬を赤らめる。

「私ホラ、一応こういう仕事に就いてる訳じゃない。だからかな、男の人を見る目は、それなりにあるつもりなのよね」

と微笑んで見せる。

「その人ね、最近よく来てくれるお客さんなんだけど、どこの人なのかとか、何してる人なのかとか、まだ全然知らないのよ」

「……そう、なの? 聞けばいいんじゃない」

「うん、そうなんだけどね、聞いても『私の事より君の事を話題にしていたい』って言ってくれるの、彼」

ね、いい人でしょ?と最後に付け加えた美佳が、その時誰よりも可愛いと思った。

きっと長い長い苦労の末に見つけた彼女の最上の幸福が、今その人なのだろう。
そういえば、今日の美佳は心なしか、以前に会った時よりも随分と明るくなっている気がする。

(なんだか、私も嬉しいな)

美佳には、誰より幸せになってほしい。
尚子は心からそう願っている。


「あの人はきっと私を好き。私もきっと、あの人が好き」

「うん」












その時。




「明里姐さーん、ちょっと!」


襖の外から知らない誰かを呼ぶ声に、美佳が即座に振り返った。




 


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