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「おう、土方か。なんじゃい、眉間にシワが寄っておるぞ」

その時、土方の拳がぐっと握られたのを、総司は見逃さなかった。

「……時に、芹沢先生。最近あちこちの見世や庄屋で借金を作っていると小耳に挟んだのですが」

ああ、言ってしまった。と総司は思う。

「……んん〜?」

芹沢の太い眉がぴくりと動く。

「それがどうしたと言うんじゃ、土方。我等の為に金を出すという事は、お上の為、ひいてはお国の為という事になる」


(喧嘩にならなきゃいいけど……)


はらはらとその光景を見守りつつ、総司は念の為にと、自らの大刀の柄に目線を配る。

「ん、そうは思わんかね、土方」

此処で素直に頷いておくべきだ。
と、総司は思った。
しかしいかんせん、土方はここで退ける男ではなかった。

「ならば、百歩譲って押し借りが正当だとしましょう。しかしね、その金は、一体何に使っておいでか。浪士組の評判を落とすような行為は、慎んで頂きたいですな」

「貴様……っ!」

芹沢の背後に控えていた新見錦が、刀の鯉口を切る。
総司もいつでも居合いできる姿勢で立ち上がった。

張り詰めた空気が立ち込める────。



「あっ、どうなさったんですかー?」



その時、思いがけぬ第三者の出没に、場の緊張は一気に瓦解した。

「尚太郎……」

先刻まで原田達に連れられて遊郭へ行っていた筈の尚子の姿がそこにはあった。

「芹沢・新見両局長、土方副長に副長助勤役沖田先生。なにやら、珍しい組み合わせですね。重要な話し合いなら、こんな縁側でなく、部屋に入ってはいかがですか」

ねえ、と総司に同意を求めるように含み笑う尚子に、芹沢は視線を落とす。

「……もう良い。ゆくぞ、新見」

「え、あ、はいっ」

二人はばたばたとその場を後にした。

部屋の中で息をつめていた総司は、ほっとしたように胸を撫で下ろした。



 


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あきゅろす。
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