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一方こちら、監察兼剣術師範代補佐、半田尚太郎。つまるところ、本名尚子の役職名である、が。


尚子は数名の隊士と共に島原の角屋という見世に来ており、しかも、たった今、美華(みはな)という局(つぼね)の“部屋”に入っていった所であった。



「部屋行っちゃったけどいいんですかぁ? 尚太郎は、その、女……」

部屋に向かった半田の後ろ姿を心から案じる様子で、平助が恐る恐る開口した。

「いいんじゃねえの? 自分から進んで行ったように見えたしな。しかも御指名だぜ」

と、永倉。

「しっかし分かんねぇよなぁ。尚太郎の野郎、何であんな無名の女を買ったんだか……」

と左之助も何やらよく分からない事を言った。
二人とも既に酒に飲まれ、尚子が女であるという事実をすっかり忘れているようなのである。

「いや、だから、尚太郎は女……」

「まァ平助、この際そんな事忘れて、パーっと遊ぼうぜェ?」

「おっイイ事言うねえ、新八! よし酒だ! 酒もっと持ってこい!」

「だぁからぁ〜…ッ!」


「……ほっとけよ、藤堂さん」


最後に横から呟いたのは、斎藤である。
この男はと言うと、出された酒をちびちびと独酌で飲み続けていた。彼は、酒さえ飲む事が出来れば、きっとそれで満足なのだろう。

しかし。


「…………」

斉藤の一言は、結果的に平助の何かを爆発させる要因となってしまったらしい。

「忘れていいわけないでしょ! っていうか、二人は無理矢理連れて来たくせに勝手に盛り上がんないで! ついでに言うと斎藤さんも高みの見物しすぎ!」










肝心の尚太郎。
……否、正式には尚子である。

彼女は、“美華”と言う局の部屋で、“美佳”と久々の対面を果たしていた。
部屋といっても粗末なもので、布団が部屋の角に畳まれている行灯部屋程度だった。

話したい事は、山ほどあった。
怖かった事。寂しかった事。悔しかった事や、楽しかった事……この二年間強にで遭遇した出来事を、分かってくれる誰かにぶつけたかった。

美華も、心から尚子を歓迎してくれた。


「ホンマにわざわざ来ぃはってくれたんどすなあ。……でも、揚げ代も安うなかったでひょ?」

「あっ、お金の事は気にしないでよ。この間から、毎月給金も出る事になってるんだから」

月給の話は本当である。
隊服をこしらえた分の金子が、最近になって会津から下され、それから以後、一月三両もの月給も下される運びとなったのである。
遊ぼうとしても、遊びきれない程の額であった。

「…………ていうか」

尚子は美華の耳元で囁く。

「普通の言葉で良いんだけどな」

美華──美佳は、あっと口をつぐんだ。

「そ……、そう、だね。そうだよね。此処に居る時は、郭詞(くるわことば)以外使うなって言い聞かされてたから、すっかり……それで慣れちゃってて……」

「……」

「この間、尚子と会った時にとっさに普通の言葉が出て……自分でも、驚いてたんだ」

美佳は苦笑していた。



 




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