G しかし現実は、尚子に時を与える事を許さなかった。 その翌朝の事である。 斎藤が、慌ただし気に尚子の寝室を訪ねてきた。まだ寝巻きのままだった尚子は、びくりと体をのけぞらせる。 「斎藤さん!?」 「あ……。すまん」 尚子は急いで帷子をはおり、斎藤の待つ縁側に出た。 「これを」 と云って、尚子の掌に斎藤は一枚の紙を押し付ける。 「なんですか、コレ」 「いいから、読んでみろ」 「はあ」 曖昧な返事を返し、早速紙面に目線を落とす。 どうやら文らしい。 尚子は、斎藤に促されるまま、それにざっと目を通した。 内容を完結に口語訳すると、次の様な感じであった。 久しぶりの文になったが、斎藤君は健在だろうか。 我等試衛館の同士は、先だって、江戸で結成された将軍警固の為の浪士組に加わり上京した。しかし、のっぴきならぬ事情により、現在我等は浪士組と分離している。浪士組は、近々江戸へ帰るらしい。 京に残った我々は、近々会津に建白書を献上し、幕臣お抱えの警備組織を作ろうと考えている。 ついては、斎藤君にも是非参加して頂きたい。 …… そして、最後に日時と場所が指定してあり、どうやら一度会いに来いという事らしかった。 「────この文、」 「ああ」 胸が高鳴る。 「今さっき届いた。──歳三さんからだが、」 「斎藤さん! 私も御一緒させてください!!」 「……そう云うと思ったよ」 斎藤は、らしくもなく、顔に満面の笑みを称えていた。 第六幕・完 後書き(言い訳)→ [前][次] [戻る] |