E 「ああ、なんだ、尚子の事か」 自分の心太を食べ終え、井上のそれに取り掛かりながら、総司はぼんやりと呟いた。 「『なんだ』って……」 「あの子は、江戸に残って良かったんだよ」 事も無げに、さらりと云い切る。 「ど、どうしてですか? 尚子はきっと、私達以外に身寄りも知り合いもいないんですよ。それなのに……」 「さあ」 「『さあ』って……どういう事です」 「うん。おれもどうしてかは分からないけど……」 「?」 「歳三さんがそう言ってたんだから、良かったんじゃないかな」 総司は、再び心太を口に運んだ。 (歳三さんの事だから、尚子を危ない目に合わせたくなかったに違いない。もしかしたら、おれの事も……) 心太の最後の一口を、飲み込む。 (優しいというより、キザなんだからなぁ……) そう考えると、あの男がどうにも可愛く思えてきて、ふいに笑みが溢れた。 「う〜〜んっ!!」 勢いよく立ち上がり、のびをした。隣で平助が驚いている。 「平助!」 「は、はい!」 「これから、どんな事がおれ達を待ち受けているんだろうな」 「さあ……」 気の早い桜は既に散りつつある。そんな季節。 予期できぬ明日からの生活に、──少なくともまだまだ若い彼等は、胸を膨らませていた。 第五幕・完 2004/12/1 [前] [戻る] |