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どうしてでしょう?
「怜衣茄〜〜!!!」

「……?」



前の授業が移動教室で、廊下を歩いてHR教室に戻っていたとき、自分を呼ぶ声が響くのが聞こえた。
耳をすませると、声の方向は右の反対側の校舎から発されている様子。
足を止め、その方向へ振り向いて辺りを見回す。
すると、一点にこちらへ向かって手を振る人物が居るコトに気が付いた。



「……んん?那智?」



ほわほわしたウェーブのかかった金髪。それより少し薄い色をした首に巻いたストール。あまり見えないけど白い制服に、藍色に近い紫のダメージジーンズ。

個性的な格好で校内に居るのは、生徒会の連中かA4しか居ない。
でも、このファッションのトレードマークといえば那智に間違いないだろう。



「なーにー??」



その那智に向かって声を出すと、何やら口を大きく動かしている。
口パクで何か伝えようとしているようだ。

えーっと…、なになに?




『 ア ホ 』




………。


うん、私の勘違い!

見間違いかな!



「愛してるよ〜!サランヘヨー♪」



先程の単語とは、瓜二つな台詞をお叫びになる、那智クン。
ブンブンとこちらにご丁寧に手を振ってから、去っていった。

この現状では、私以外の女子には那智くんが私に惚気ているように映ったに違いない。
現に、キャー!と、赤面していそうな黄色い声が聞こえた。


ああ……、現実はそんなに甘いものじゃないのに……。

ムカつくね☆

那智、後でどうしてやろうか。



「……篠田?」

「あ。慧くん」



那智が去っていった方向をじぃっと睨んでいると、不意に先程まで足を向かせていた方向の後方から那智の双子のお兄さんである慧くんが私に気が付いて声をかけてきた。

なんだか、大量の書類を抱えている。



「重そうだね、手伝おうか?」

「いや、大丈夫だ。女性の手を煩わせる訳にはいかない」

「え?女性とか、そんなの気にしなくていいのに」

「有難う。気持ちだけ受け取っておく」



誠実で、真面目な那智のお兄さん。
そんな慧くんが大好きで、ブラコンである那智。
確かに、こんなに紳士である彼を慕う気持ちはよく分かる。



「……なんだか、那智がお前に迷惑を掛けているらしいな」

「え??誰に聞いたの?」

「いや、聞いたというか…那智の態度で、なんとなくそんな気がしただけだ」



す、鋭いね、慧くん…。

リアルなツンデレって感じだから、鈍いものだと思ってたよ……って、それは偏見…いや、失礼だった??





「那智は虫一匹も殺せないような奴だから……これからも宜しく頼む」




え?ちょっと待って。

那智がか弱いから迷惑をかけていると思うけど宜しく頼む、って感じになってません?
虫一匹も殺せないって…さ、それはないと思うんだ。


得体の知れない虫の死体を見つけたときに、「この虫マジで気持ち悪くない?怜衣茄要る?あげようか?」とか、私が虫嫌いなのを知っていて見せ付けにくるような人が、そんなにピュアな人間の様には到底思えないよ…。

純粋な子は「可哀想…って、そうだ!怜衣茄は虫苦手だったよね?ごめんっ」とか慈悲の言葉をかけるでしょう。



ご、ごめんね……慧くん…。

やっぱり、慧くんは鈍感だと思います。
逆に言えば、悪魔な那智に騙されている慧くんが、真っ白で純粋な人だと思います。

兄弟揃って、違うタイプのブラコンなんだなぁ…。



「ああ……うん…」

「なんだ、どうかしたのか?」

「う、ううん!何でもないの!」



それじゃ、わたしこっちだから!と、突き当たりの角で慧くんと別れた。

はぁ……、私の悩みを分かってくれる人は当分現れることがなさそうです。





「……はぁー」

「怜衣茄〜、ちょっと」

「へ?だっ、うわっ!?」



視界がガクリと揺れたと思えば、何故か目の前に自分をさっきイラッとさせた人物がそこにいる。




「あ…。虫一匹も殺せない、那智きゅん」

「は?」

「いや、なんでもないよ」



「那智きゅんっていうのは、後で怜衣茄にゆっくり追及するとして…。慧が、そんなコト言ってたの?」




兄の慧くんとは違って腹黒い那智は、やっぱり鋭いみたいです。

えーあー…うん、と曖昧に返すと、妙に深刻な顔をして那智が私を見るものだから視線の先に戸惑った。




「ま、いいけど。いまはもう俺、怜衣茄が俺のコトをちゃんと分かってくれてれば、それでいいからさ〜」




急に、ぎゅっと那智の胸の中へご招待されて、現状が掴めなかった私は呼吸が一時停止する。

ハッとして那智を押し返したが、びくともしないし離してくれない。



「ちょっと、離してよ!」

「どうして?俺たち恋人同士じゃーん。ぎゅーーっ」

「ぐっ…苦し…!……じゃ、なくて、場所を考えてよ!此処、HR教室が並んでる廊下だし、みんな見てるでしょ!?」

「だからだろー?ほら、ちょっとした遊び心ってヤツ?」

「私は女子からの視線に遊びじゃなくて、深刻な問題になりかねないんだけど!」

「そのときは、そのときじゃない?お前には俺が居るんだし、それで十分かまわないよね?」

「冗談じゃない!!良くないわよ!」



さっきまでは仕返しするつもりだったのに、また気が付けば彼に振り回されてる。




どうしてか貴方には適わないし、
甘くなってしまうわたし。




(怜衣茄ー?そんな顔してるとキスするぞ〜)
(え、だめ!絶対にだめ!!辞めて!)



090503 どうしてでしょう? 中條 春瑠


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あきゅろす。
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