幼少期 いち
それは本当に幼いとき。
三、四才ぐらいだったと思う。
聖帝の幼稚舎に通っていた頃だ。
お世話になっていた産婦人科が一緒だったことから、よく顔を合わせていたらしい慧と那智のお母さんと私のお母さん。
慧&那智ママの方が早くから通っていて、私が産まれるなんかより何ヵ月も早くに2人は産まれて、うちのママより先に来なくなっちゃったし、子供同士では顔を合わせることはなかった。
だけど、幼稚舎に入った時にママが、慧&那智ママが子連れなのを見かけて声をかけた。
ママたちにとっては、久しぶりのご対面。
『あら…!同じ学園の幼稚舎にいらっしゃっただなんて、すごい偶然ね!』
『本当ですね!知ってる方がいらっしゃって良かったわ。少し心細かったのよ。これから宜しくお願いしますね』
なんて、奥様の同士の長話が始まる。
そのママたちの様子を窺いながらも、私は自分と同じくらいの歳に見える彼らをママの後ろに隠れて盗み見た。
それを不思議そうに顔を見合わせて見つめる、何処となく顔立ちの似た2人の男の子。
それが、私たちの初めての出会いだった。
「みくずちゃん、きょうは みつあみなんだね」
「うん、ママがむすんでくれたの!」
「へぇー、そうなんだ!すごく にあってるよ」
「ほんとう?」
「もちろん!かわいいっ」
那智は、こんなに幼いときから口が巧かった。
だから、女の子にはこれでもか!!ってぐらいにモテたし、幼稚舎の先生も女の子たちの口から『那智くん』と、単語が出る度に内心やれやれといった顔をしていたらしい(コレは私のママ情報)。
そんな彼の甘い言葉に魅せられたのがきっかけで、私もプレイボーイの那智の笑顔に恋した一人だった。
「おまえは、いかなくていいのか?」
「…えっ……?」
大勢の女の子たちを虜にする故、争奪戦が激しい、那智。
好きだからといっても、争奪戦に乗り出すことは出来ず、どうしたらいいのかなんて分からなかった私はただそれを離れた場所から眺めていた。
日々、その繰り返しをしていた私が目に付き、ついには見兼ねたらしい慧ちゃんがあるとき私に声をかけた。
「けいくんが はなしかけてくれたの、はじめてだね」
「そっ…それは、おまえがあまりにみじめで みていられなかったから…!」
「え?なぁに、みじめって?たべもののなまえ?あれ、ちがう??どうぶつかな?」
「おまえっ…、それは、ほんきでいっているのか!?そんなことばもしらないのか?!」
「うん、しらない。なーに?」
「……し、しかたない。おしえてやる!あのな、みじめっていうのは――――」
それがきっかけで、慧ちゃんと私は割とよく話すようになった。
人との馴れ合いが好きじゃないみたいで、那智以外の子と話しているのなんて全くと言っていいほど見ることがなかった慧ちゃん。
休み時間だって、絵本じゃなくて分厚くて難しそうな本を読んでいた。
『よくわかんないけど、こわい』って、周りの子たちも寄り付かなかったし、本人も寄せ付けない。
独特の殺伐とした空気には、先生までもが挫折していたそうだ。
だから、慧ちゃんが私と話すようになったときには、幻覚を見ているのでは、と先生たち全員の開いた口が塞がらなかったらしい。
でも、天才的に(いや、天才だったよね?)物知りの慧ちゃんの話は周りの子たちとは全く違って、当時の私には異世界の話みたいで本当に興味深かった。
090321 中條 春瑠
(幼稚園ぐらいの頃って、ダントツで那智みたいなコが人気じゃなかったですか?)
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