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貴方が居なきゃ、駄目なの
あーあーあーー、どうしよう。
うまく話せない。
もしかしたら私……、いや、ダメだ。絶対にダメ。こんなのダメなんだから。



「なっ…、ち………」



うわ、意味わかんね。なっち?なんなんだそれは。何が言いたいんだ。なっちって、誰だよ。そんなの、つん●♂のプロデュースのモー●ング娘。の元メンバーしか知ならいよ、わたし。
ああああ、もう!なんなの、わたし!



「那智っ!!」



私は二階の窓から校庭に向かって、叫んだ。半分開き直った私は、まるで喧嘩でも挑もうかというような鋭い口調で彼の名前を呼んでしまう。
げ、どうしよ。



「なーにー??」



でも、慌てている隙なんて彼は与えてくれなくて、ふと顔を上げると私を見付けてそう呟いた。


昨日は『好きだよ』って、唐突に言われて驚いた。
だが、それも真剣に言われていたとしたら嬉しいものだったはずだろう。
私は、それを素直に受け取ることなんか出来なかった。
彼の心は、そこにはないような気がしたから。
本心の言葉じゃないなら嬉しくなんか…ない。
胸が苦しくて、仕方なかった。


彼の指先が私の唇に触れたとき、私は顔を逸らして拒絶してしまった。
それと同時に『冗談だよ』って、彼は笑った。


その後は那智が一方的に、他愛もない話を始めて、反応はぎこちなくなってしまっていたと思うけど私はそれに答えていた。


彼はあれから、まるで何事もなかったみたいに私を見る。



だけど、こちらに近付いてきてはくれなかった。大きな声を出さなければ、言葉は聞き取りずらい距離。
いつもならこんなに遠い位置からだって、大きく手を振りながら、話しやすい位置に自然とついてくれて、私の顔をじっと見て『どうしたの?』って、笑って返してくれるのに。


もしかして、本当はあの時よりずっと前から今の私と彼の心の距離は知らずに離れてしまっていたのだろうか。

いつからこんなに離れてしまったんだろう。
どうして、離れてしまったのだろうか。

やっぱり、私の所為かもしれない。
ずっと幼馴染みでいられる。
そう、それ以外は望まなかったし、何も考えていなかったから。


本当は、そんなことを考えているくらいなら、ちゃんと言葉にして伝えたい。
深刻に考えすぎると、話すタイミングを逃すことにもなりえないから。



「……ごめん!なんでもない!!」



だけど、今はダメみたい。

私の胸から溢れた不安が水滴になり、私の頬を伝っている。頭の中をぐるぐると駆け巡る感傷に浸ってしまった所為だ。
こんな顔を見せたら逆に心配をかける。迷惑を掛けるだけ。これだけある距離だから、といったって侮れない。



だって、那智は日頃から人をよく見ているもの。


七瀬先生が学校に来ていらっしゃってたのに逢えなかったときとか、慧ちゃんを『パパ』って呼んでみたら冷たくあしらわれたときとか、アラタ君が私を交えないで下ネタトークをしていたときとか、自分でも分からないけどあんまり気分が乗らないときとか……、ちょっとブルーな気持ちになっているときには、いつも那智が誰よりもいち早く『何かあった?』って、声をかけてくれていた。

ものすごくくだらないことで考え事をしていたときだって、見逃さずに彼はそれを問いかけてきた。

そのくらい彼は、敏感で、繊細で……。



だから、わたしはそれだけ叫んで彼から背を向け、すこし歩く。
居なくなったフリをして、窓から見えないその場にしゃがみこんだ。



「……っああ、もぉ……」



伝えたかったことを、何ひとつ話せなかった。
なんて、私は不器用なんだろう。
どうして、こんなに泣き虫なんだろう。

ごしごしと、乱暴に右腕で目を擦る。


どうしたらいいの?




こういうのを解決するのが得意で、相談に乗ってくれていたのだって、
今までずっと貴方だったのに。



(私、)(貴方が居なきゃ何も出来なくなってた)




090331(訂正) 貴方が居なきゃ、駄目なの 中條 春瑠


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あきゅろす。
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