初キス、だーれの!
「ねぇ、知ってる?私のファーストキスって、慧ちゃんなんだよ」
「ぶっ…!」
真面目で厳格な聖帝学園の王子様と例えられたら万人一致で頷かれる、方丈 慧。
あろうことか、そんな彼が私の言葉に噴き出した。
しかも、げほげほ言いながらむせ返ってる。
やばくね?わたし、やらかした?
「だめだよっ!まだ死ぬには早すぎるよ、慧ちゃん!!」
「か…っ、勝手に死にぎわと錯覚するな!!」
彼の長い制服の袖をぐいっと引っ張ってしがみつこうとすると、それを慧ちゃんは大袈裟に振り払う。
え、なんかショック……。
慧ちゃん、もしかして……反抗期?
「僕はっ…、そんな淫猥な行為をした覚えなど……!!」
そう言って、こちらへ向けられた彼の顔は耳まで赤く染まっている。
え、ちょっと……、その顔は罪だよ、慧ちゃん。
言葉と行動とは裏腹のこの表情は、女の子なら期待を募らせてしまうコト間違いなしだろう。
「淫猥ってねぇ……慧ちゃん、キスに対してその言い方はどうかと思うよ…?」
「なっ…何処が違うと言うんだ!淫行には変わりないだろう」
「うーん……そりゃ、もしもフランス風に舌入れちゃったりしたなら淫猥っていうかもしれないけどさ…」
健全な女子がそのようなコトを容易く口に出すんじゃない!!、とまるでお父さんみたいに怒鳴る、慧ちゃん(いや、寧ろウチのお父さんより発言が中年層の父親くさいけど)。
「って、そんなコトはどうでもいいんだ!」
「……あ、うん…」
「僕は、いつお前とそんなコトをしたって……いうんだ」
はぁ…、やっと言えた!言い切った!という心情が彼の表情に現れる。
それはあまりに可笑しな光景であった。
けど、当の本人である慧ちゃんは至って真剣なワケだし、私は(慧ちゃんが可哀想だから)平生を装って我慢した。
「そんな気がするだけだよ」
「……は?」
「なんか、私がファーストキスを交わす相手、慧ちゃんな気がするんだよね」
意味が分からない、と私を見つめるキョトンとした瞳。
不意に考える素振りをしたと思えば、何かの結論に辿り着いたらしい慧ちゃんはハッとして、それからまた頬を赤く染めた。
「な、な……なんの理屈があって…!」
「理屈なんてないよ。なきゃ…ダメかな?」
「えっ…いや、そうじゃなくて……だな…!?そ、それに……それは…どういう意味で……」
しどろもどろになって、目を泳がせて動揺する慧ちゃんに悪いコトをした訳でもないのに罪悪感がわいてくる。
そんなに……、嫌だったか。
「あー……ごめんね?変なコト言っちゃったね。慧ちゃんはいま恋愛とか興味ないもんね?」
自分で言いながらなんだか悲しくなってくるけれど、理由はなくても私のファーストキスの相手が慧ちゃんな気がするのは事実だ。
なんだろうな、よく分からないけど……私の中では慧ちゃんって、何かが他の男のコと違う気がするんだ。
「……そ、そうだ!!ぼ、僕は……、僕は、恋愛などという無意味で支障にしかならないものに興味など ―――」
「じゃあ、俺が貰ってもいいよね?」
私たちの会話に突如、割り込む聞き慣れた声。
「湊久葉のファーストキス」
声の方へ、振り変える。
そこには私たちに向かって微笑む、那智の姿があった。
口をパクパクさせて、まるで鯉みたいになっちゃっている慧ちゃん。
双子のクセして2人は似ていないけれど、現状では余裕の違いまで対照的になっていた。
「慧が要らないなら、のハナシだけどね」
「!!なっ…!」
「どうなの、兄さん?」
「そ、れは……、その、」
可愛いあのコの唇は、誰のモノ?
ファーストキス争奪戦。
(ね?湊久葉、ファーストキス俺にちょうだい?いいよね?)(だ、ダメだ!許すな、湊久葉!)
(え、慧ちゃんが久々に私の名前呼んだ!)(!!)
090317 初キス、だーれの! 中條 春瑠
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