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好きって、聞こえない
「那智っ、那智!」

「ん、湊久葉?どうかしたの?」



彼の不意を突いた呼び掛け。

しかし、それにも驚きの影を一切見せず、私を振り返り優雅にニコッと笑うその姿は、正に王子様(別名、プリンスともいう)。
聖帝学園の生徒たちの間では、彼は“爽やか王子”という愛称で親しまれ、全校生徒の憧れの的である。


(今日も麗しく生きてるなぁ、那智は)


天才でも真面目というか堅実で、本当にお堅くて、典型的なA型体質で…も何処か抜けてるツンデレ要素の満載なお兄さん(慧ちゃん)と比べて、そんな兄さんが大好きで、物腰は柔らかく、人当たりも悪くはないんだけど、馴々しいところもあり、たまに意地悪で、考えていることがイマイチ分からない彼(那智)は、双子の兄弟とは思えない違いの差。
確かに、兄弟揃って天才肌、容姿端麗で、存在感が他から群を抜く貴族階級(?)なのは分かる。
だが、とてもじゃないが、性格と人柄に関しては同じお母様のお腹から産まれてきたとは思えない(外見も顔は同じでも、双子にしては見分けがつくし)。
少し遺伝子がズレているのではないだろうか、と疑いたくなる。

まあ…、二卵性じゃズレも生じるのかな??



「湊久葉、何かいいコトでもあったの?」

「え?どうして?」

「口元に幸せの跡がついてるよ」


「ええ?!わたし、授業中寝てないし顔も洗ってから学校来たよ?!ウソ?ウソだよね?」

「そんなに必死になることないのに〜。ウソだよ?」

「なんですと!?ひどーいっ!那智のいじわる!」



私は、そんな彼らの幼馴染み。

女子のみんなからは夢のように思われ、羨まれる美味しいサイドだ。
まぁ…もちろん、私も彼らと幼馴染みなのは嬉しいし、誇りに思ってるんだけど。

その私に対してこの学校の生徒は何か言ってきたりもしないし、嫌がらせを働いたりしてくる生徒とかもいないから、安心して学校に通えている。
流石は優秀校の生徒。環境も完備されているし、本当にいい学校だ。
それも慧ちゃんが生徒会長、那智が副会長を務める、力のおかげでもあるだろう。

これでいいと、慧ちゃんは思っていないようだけど。
毎日のように、A4には手を焼いているし。
…まあ、そのときには私も巻き添えにされるから少し困るんだけど……。

でも、私がこれでも充分に感じられるのは、2人が生徒一眼をまとめる力のおかげなんじゃないかな、と私は勝手に思ってる。



「だって、こういうときの湊久葉、小さい頃から変わらないし。可愛いから思わずさ〜」




「……那智はさ、」

「?」


「変わったよね、すごく」



たまに彼は遠くなっちゃったな、って感じる時がある。
慧ちゃんは昔から変わらなくて、ちょっとしたコトで怒るし、頭は堅いし、80年代とかのお父さん(謎)みたいだし、顔に出るから、背丈とか身体付き以外はあまり時間の経過を感じない。

でも、那智はなんだか違った。



「あれ?なに、湊久葉?急に深刻そうな顔して」


「……だってさ、」




「私の見えないところでも那智は成長してるんだよなぁって、思うとき……増えたもん」



子供の頃から人懐こかった那智は、なんでも『湊久葉、聞いて!』って、何でも話してくれたけど、今の那智から話してくれる内容なんて限られてる。


彼と並んで廊下を歩いていたのを、ちょうど視線が重なって足を止める。

あくまで冷静にだけど、微かに驚いた様子で私を見つめ返す瞳。

だけど、それも刹那の出来事。

目を細めて笑顔をつくった彼の表情の奥は、何処か曇っているような気がした。



「湊久葉は……」

「うん?」



「好きな奴、いるの?」




普段の彼からは、あまり見慣れない那智の強い眼差し。

まさか、彼がこんな質問を真剣に投げ掛けてくるだなんて。


恋愛の話題を、真面目な表情で触れられたのは初めてだったから、私は酷く驚いた。

確かに、今までに何度か『湊久葉、好きな人いないの?』って、聞かれた記憶はある。
でも、その記憶の中にある那智はいつもからかうように微笑んでいた。


何故だろう。

答えを待つ彼の瞳は、私を映してはいない気がして、それに心臓がぎゅっとわしづかまれたみたいに胸が苦しくなる。




「那、智……?」


「ねぇ…、湊久葉?」



ほら、那智……。

今の那智は、私の知らない貴方だ。

私の知ってる、那智じゃない。


貴方の視線の先に何が映っているのか、何を映そうとしているのか、私には見当も付かないし、わからない。



「好きだよ、湊久葉」


「えっ……」



そう囁いた唇が近づいて、私の頬にちゅっとあたった。





嘘?本当?


それは、本人だけにしか分からない真相。


(貴方の瞳には)(いま、何が映されていますか?)




090331(訂正) 好きって、聞こえない 中條 春瑠


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