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そうか、恋してたんだ
「慧ちゃん!」


にこっと微笑んでこちらへ手を振り、それから駆け寄ってくる彼女は僕たちの幼馴染みだ。
そんな姿は愛らしく、彼女は周りを自然と明るく笑顔にしてくれる、そんな存在…で、………って、僕はなにを考えているんだ。



「那智が探してたよ?」


……待て。

どうして、二言目が那智なんだ。



「こら、廊下は走るな」


……って、

どうして、僕はイライラなんて…しているんだ?



「あ…ごめん」


しゅん、とした湊久葉を見て、はっと我に返る。
僕は落ち込ませるつもりじゃ……や、でも規則は規則だ厳守せねば…、だが彼女にこんな表情を……ああぁあああ、なんだ。
何だというんだ。

今日の僕は何かおかしい。


「……慧、ちゃん??」

「ぅわっ…!いや、その、何でもない!」


近い……近いっ!!!

夢中で思考を巡らせていると、周りが見えなくなっている間に彼女の顔が目の前にあった。
顔を覗き込み、上目遣いで心配そうに見つめる瞳はまっすぐに僕を映している。
ふい、と視線を逸らしてどうにかそれから逃れようとするが、彼女はそんなのお構いなしで顔を近付けてきた。


「本当?大丈夫??何かあったら気軽に言ってね?私ね、慧ちゃんのコト、いつも心配してるんだよ?」

「えっ……」


心配してるって……、僕のコトを?
僕のコトを考えてくれているっていうのか…?


なんだろう、どうしてか分からないが、湊久葉が僕のコトを考えていてくれていたなんて、と考えると胸に何かがグッと込み上げて、

溢れそうで、

ドキドキ…、……ドキドキ?


いや、ドキドキなんてまるで僕が彼女に恋をしているみたいじゃないか。
まさか、そんなはずない。

だって、彼女は母親ぐるみの幼い頃からの付き合いで、それ以上の感情なんて……


いや、でも…、

確かにそれなら、先程の彼女の二言目が那智だったコトに腹が立った理由も説明が付く。
俺は、那智に嫉妬したコトになる。


え、嫉妬?

どうして、俺が那智に嫉妬なんか……

あああ、もう頭がこんがらがって訳が分からない。


でも、好きだ。

確かに、湊久葉のコトは好きだ。


今じゃバカでアホで何を考えているのか分からないけれど、コイツは人を疑うことを知らないし、人を信じる故なのか騙されやすいし、たまにドジは踏むし、俺は彼女を放っておけない。

いつ何をやらかすか分からない、彼女の身に何が起こるか分からない、変な奴に絡まれたりしていないだろうか、ありもしない嘘を吹き込まれたりしていないだろうか、いま彼女は何処で何をしている?

そうなると、居てもたってもいられなくなる。
自然と身体は動いているし、視線は彼女を探していて、見つかるまで落ち着かない。


……そうか、分かった。


気が付いていなかったというだけだった。

こんなの普通に考えたら、異常だ。
コレで何もないだなんて、第三者から見たらオカシイ。



そうか…。


僕は、湊久葉のコトが―――



「慧ちゃんは硬派な感じだから、この先に好きな女のコが出来たときに右も左も分かんないんじゃないかとか、大人になってアダルトな話になってもあはんうふんなマナーとかやり方が分かんなかったりして恥ずかしい思いをしちゃうんじゃないかとか、そう考えたらパーフェクトの名だって廃っちゃうかもだしどうせならあっちだってパーフェクトでテクニシャンな方がいいと思うから今のうちに私が性教育を叩き込んだ方が為かもしれないとか、まずは興味を持たせる為に慧ちゃんのロッカーにエロ本つっこもうかそれともAVつっこんだ方がいいのかなとか、でもそんなのは余計なお世話で実は那智に恋しちゃってるとか禁断な方に足を踏み入れて苦しんでいるんだったとしたら私はどうしてあげたらいいんだろうとか―――」


「先程の報告、感謝する。僕は、那智を探してくる」



気持ちを入れ替えるように、盛大に咳払いをして彼女の横を通り過ぎる。

ちょっと待って、という台詞が耳に入ったような気がしたが、聞こえなかったコトにした。




そうだ、そうだった。


彼女は大人しそうな外見とは裏腹に、そういうヤツだった。





ああ、


好きだなんて、気が付かなければよかったのに。





(だけど、やっと気が付いた感情に)(今更背くことなんて)


(簡単に出来る訳がない)




090317 そうか、恋してたんだ 中條 春瑠


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