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初めての口付け
ドキドキと胸の鼓動のひとつひとつが大きく、はっきりと波打つように感じる。

彼の瞳に見入らされ、私は言葉を失う。



「……湊久葉?」



ああ、どうしよう。
こんなにドキドキしてしまうだなんて。

私にとっての彼は幼馴染みなんて、腐れ縁だけな関係じゃない。
いつの間にか、私は彼が好きになっていた。
さっきは、目を奪われていたんじゃない。
慧ちゃんに、心を奪われてしまったんだ。
私にとって、彼は特別という存在にされてしまった。



「慧ちゃん、責任取ってくれる?」

「…ん、何の話だ?」

「私を惚れさせた責任、取ってくれる?」



言葉の理解に遅れたらしく、慧ちゃんは一瞬、きょとんとした目をする。
でも、それは不安そうな表情で返される。



「……僕で、いいのか?」

「何言ってんの!慧ちゃんじゃなきゃ駄目だよ、私」

「言葉のまま、事実として受けとめていいのか?」

「…もう!慧ちゃん、らしくないよ!」



そこはいつも通り、僕に不可能はない!任せておけ、じゃないの?と、聞き返すと、彼は間を置いて困ったように笑う。



「完璧だと思っていた自分を、まだまだ未熟だと気付かせてくれたのは他でもない、お前だ。まだ至らないところが、僕にはたくさんある。そんな僕でもいいのか?」


「最初から完璧な人間なんか、そうそういるものじゃないよ?至らないところがあって当然だよ。それに完璧とかそうじゃないとかは関係なく、方丈 慧っていう一人の人が私は好きなの。もしも慧ちゃんがこの先、道に迷ったり躓くコトがあれば、私が支えになりたい」



黙って私を見つめる彼は何処か穏やかな雰囲気を纏って、困ったように微笑んだ。
その表情が妙に儚げに見えて、私は思わず彼の手を取り、ぎゅっと握る。
視線を真っ直ぐあわせれば、彼の柔らかな視線に出会う。



「…湊久葉…、礼を言う」

「お礼を言われるようなコトじゃ、ないってば!慧ちゃんの代わりになれる人なんて私には存在しないんだから!」



意思を表すように強く握り返された手に、私はほっとした。
慧ちゃんが恋愛面では、こんなに弱気になるなんて。
勉強面では見られない彼の変化にやっぱり彼も人間なんだなと感じる。
生きていれば不安なんて、山程ある。
一切それを他人へ見せようとしない彼の新たな一面が、ようやく分かったような気がした。



「お前は、強いな」

「ううん、そんなコトないよ。慧ちゃんの方がずっと強い。私、慧ちゃんのいつも真剣に皆のコトを考えて突き進めるところ、尊敬してるんだよ」

「……なんだ?今日は、僕をよく煽てるな」

「あ!慧ちゃん、私がいつもふざけてると思ってるでしょー?私だって、真面目に話すときはちゃんと話せるんだよ」

「そうだな。お前は…、だから憎めない」



慧ちゃんが、手の届くすぐ目の前にいる。
聖帝学園高等部の生徒会長であり、私の幼馴染みの彼が。



「でも、この前から慧ちゃんの方が素直になったよ」

「そ、それは……今までは胸の動機の意味が分からなかった。だから……それは…悪かった」

「……え、そういう意味の反発だったの?」

「は、反発……、反発していたつもりは……いや、それ同様な反応をしていたな。すまなかった」

「ま、待った!慧ちゃんに何回も謝られると変な感じだからもうこの話は止めよう!ハイ!おしまい!!」

「…え、あ…、ああ……」



歯切れの悪い返事ではあったが、強引に話を終了する。
だけど、次の話題が浮かばない。
どうしようかと頭を悩ませていると、不意に慧ちゃんが私をじっと見つめていることに気が付いた。



「慧、ちゃん…??」



「湊久葉、キス…してもいいか?」


「え……わ、私で良ければ、喜んで」



彼の指先が、下唇を優しく撫でる。




初めて交わしたキスは、

味なんて覚えてないけれど。



ただ、柔らかい感触の余韻に溺れた。



(お前に相応しい男に、きっとなってみせる。幸せにする)(え、プロポーズ…?)(そう取ってくれても構わない)(ええっ)




090416 初めての口付け 中條 春瑠

(慧ちゃんはコレで完結…、なのかな?一段落着いた感があるのですが…どうなんだろう?いや、管理人の気が向けば、もしくは要望とか頂きましたら、ちょこっと番外編チックなものを書いたりするかもです (*´∀`))


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