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心から、愛していると
「ファーストキス……キス、か…」



慧ちゃんに、考えておけと言われたファーストキス。

そんなコト言われても…なんていうか、その……実感が湧かない。
それに、私の都合よく考えて良いものなのだろうか。



「……あ、慧ちゃん…」



自分のクラスへ向かう途中の廊下で、窓の外を眺める慧ちゃんの姿を見つけた。

眩しいくらいの朝日に照らされながら、目を細め、校庭に植わる木々を見つめているようだ。
その自然にまるで溶けてしまいそうなくらい、彼のその姿は絵になっている。
そよそよと吹く風は、彼の金色に輝くストレートの髪をさらさらと揺らしていた。



「……………」



スラッと高い身長に、長い手足。
日本人離れしたその体系の、シルエットも屈折することなく真っすぐに伸びていて、まるで彼の意志と信念の強さを表しているように見えた。


まるで、英国の王子様みたいで私は思わず見とれてしまう。

いつもなら、あまりこんな風に感じないのに。
慣れというものは恐い。
身近な存在のはずだった彼の魅力に、一人の時に気が付くんだから。
視野が、こんなにも違ってしまっていたのだから。
外見なんかより、今までずっと彼の性格ばかりに気を取られていたように感じる。

いつも真面目で真っすぐで、でも何事にも一生懸命だからたまに彼は周りを見失ってしまうコトがある。
だからその時には『それは違う』って、私は反発ばかりしていた。
それでも彼が意見を突き通そうとした時に私は一度だけ、彼を本気で怒鳴ってしまった時があった。
普段あまり怒りを露にしなかった私を、彼は酷く驚いた様子で見つめた。
だけど、慧ちゃんはそのとき初めて私の意見をちゃんと聞き入れてくれた。
きちんと納得した上で「検討しよう」と言ってくれたし、後には間違いに気が付いて、私にわざわざ謝罪にまでやって来たのだ。

それからというもの『アホとバカは嫌いだ』と言っていた慧ちゃんも少しずつ、ClassZの意見も聞き入れてくれるようになったし、全校生徒に慕われ、より信頼されるような生徒会長になった。



「……ん、湊久葉?」



コバルトブルーの瞳が、不意にこちらに向けられる。

ああ、なんて綺麗なんだろう。
女の私でも羨ましいくらい、端正で美しい容姿に目が眩みそうになった。



「慧ちゃんがあんまりにも綺麗だったから、見惚れちゃった」

「…何を言っている?男に見惚れるなど、可笑しいだろう」

「そうだね。オカシイね…」



本当に。可笑しい。

慧ちゃんのコトを考えているだけで、こんなに心が温かくて、ドキドキしてる。



「どうしよう、病気かな?」



ふふふ、と笑ってみせるけど、何処か照れ臭くて。



「私、慧ちゃんのこと…好きになっちゃったのかな?」



首を傾げて、笑う。

窓の桟から手を離し、彼が私の方へと歩み寄った。



「好きになってもらわないと……僕が、困る」

「え…?」



私の前へ立って、目線の高さを同じくらいの位置に合わせる。

そうして、彼は口の端を緩め、最高に眩しいくらいの笑顔で微笑んだ。



「僕は、お前を……水咲 湊久葉という女性を、愛しているのだから」




こんなの、反則だ。



(慧ちゃん、こういう時はどうして照れないんだろう…)(ん?僕は、本心を伝えたまでだが……)(そ、そうだよね…。信じられないけど、慧ちゃんは真剣なんだよね…)



090413 心から、愛していると 中條 春瑠


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