高等部入学式 二
入学式が終了し、教室へ向かう道程を隣にいた彼が私の隣に回って、背中を押して即された。
「えっ、あ……あのっ」
「ちょっとだけ、付き合って?」
「……うぅっ、…うん」
彼の、女の子を容易に断らせない術は今も健在らしい。
本当に、この人はいつ何処でこんな表情を覚えたんだろう?
昔からそうだったけど……なんか、人への接し方には変わりがないみたいで複雑だが、反面は安心した。
当然だけど、背なんかスラッと大きくなっちゃったし、顔もなんか一段と綺麗に……いや、男のコにそれは失礼なの?
でも、綺麗だし…、制服なんだか私服も同然になってるけど、オシャレだし…、これまた現在も進行中で絶対にモテてるでしょう…。
「方丈 那智…くん、で合ってるよね?」
今更ながら質問してみる。
「うん、そうだよ〜!忘れないでいてくれたみたいで、よかった」
な、なんだ、眩しいぞ…!!
今のスマイルは0円じゃ安すぎるし、でもプライスレスっていうか、うわうわうわ、怖いよ。価格請求とか来ないよね?!
「あのさ、『那智くん』の方が……いいのかな?」
言ってはみるものの、少し切ない。
「えーっ…。俺は、今まで通りがいいかな。そうじゃなきゃ、俺だって『湊久葉』って、呼べなくなるしー…」
「ほ、ホント?いいの?」
「うん、もちろん!俺が、そう呼んでほしいから」
「…くすっ、有難う。嬉しいな」
よかったー!那智が相変わらずこんなに優しくて!
なんか…初恋の相手でもある彼だから、特別に嬉しく感じる。
まぁ……想いを伝えたことはなかったけど!
今でもそれは、あの頃の淡い思い出を彩る1ページだよね!
ん?でも……那智って、あの頃は一人称が『僕』だったよね…??
んんんー、違ったかな…??
「兄さん……、慧にも、普通に接してあげてくれる?」
「え?当然だよっ!慧ちゃんがそれでいいなら…、だけど!」
「くすくすっ、懐かしいな…。それ」
『慧ちゃん』という言葉に、反応したらしい彼。
有難う、と小さく呟いて、目を細めて微笑んだ仕草には思わずドキッとしてしまう。
あれ?というか、いつの間に彼の手が腰に添えられているにも近い状態になってる気がするんだけど……。
「ね、兄さん?俺の勘も伊達じゃなかったでしょう?」
急な彼の他人への話の投げ掛けに、私は少し驚いたが、彼の視線の先を覗く。
彼が話し掛けた相手は、私たちより先にいたはずの慧ちゃんであった。
彼が歩調を緩めた訳ではなさそうだし……、知らない間に追い付いてたの?!
「保証がないとは言わせないよ〜??慧を『慧ちゃん』なんて呼べるの、湊久葉しかいないんだから」
「……っ、だが…」
那智の隣からじぃっと見つめてみるけれど、やっぱり彼は私に目を合わせてくれない。
「ええ〜?それでも、納得がいかないの?」
「彼女は、おさげじゃないだろう!?」
…………シーン。
慧ちゃんが私を見て、ヤケに声を荒げるものだから周りの人間まで沈黙する。
「兄さんって…、湊久葉をおさげっていうので判断してたの?」
「那智、私……他の髪型もしてたよね?」
「っ……!!や、あの…そんなつもりじゃ…」
慧ちゃんの焦りも虚しく、私は何故か那智と目が合って、それから話題が飛んでしまう。
「ああーっ!!湊久葉、ポニーテールとかツインテールもしてたよね!アレも可愛かったなぁ…」
「え、覚えててくれたの?!」
「湊久葉のコトは、いつも見てたから。当然でしょ?」
え、え、どういう意味?それって、どういう意味なの?
そして、私まで慌てる羽目になる。
それとは裏腹に、にこにこしてる彼への反応にはものすごく困った。
「僕の話はまだ終わっていない!!話を聞け…っ!!!」
そこに再び、慧ちゃんの声が響く。
なんだか、これからの日常は騒々しい毎日になりそうな予感です。
(だから、僕は…!!)(ハイハイ。兄さんは久し振りに湊久葉に会って、なんて話していいのか分からないから空回りしちゃったんだよね〜?)(なっ…別に…!)
(慧ちゃんのツンデレって、今キャラも健在なんだね!!)(つ、ツンデレ?!……そ、それは…あの、ツンデレラのコトか?)(えー!!待った!ツンデレラって……慧ちゃん、アレまだ信じてたの?!違うよね!?)(違う…?何がだ)
(っ…ぷ、ははっ!)(!!那智、何を笑っているんだ!!)
090411(訂正) 中條 春瑠
(那智文庫はヒロインも…ね 笑笑)
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