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高等部進学前
「湊久葉ちゃんって、覚えてる?」



今までは、俺の話に大して興味もなさそうに相槌を打ちながら、本へ集中していた慧の手が突如に止まる。
懐かしく、縁のあるその名前に反応したようだ。



「確か、幼稚舎に通っていた頃……」



パタンと、今まで手にしていた本を机に置き、椅子から立ち上がって本棚を物色しはじめる。
コレだ、と一つのアルバムらしい物を引っ張り出すと、それを開いて2、3枚ページを繰る。
お目当てのページを見付けたらしい慧は迷わず、彼女の名前が下に書かれた写真を指差して、俺に示して見せた。



「コレだろう?」

「そうそう、この子!!わぁ〜、懐かし〜いっ♪」



幼いときの記憶のまま、三つ編みで愛らしく写っている彼女の姿。
写真越しだが、あのあどけない笑顔を実際に目の当たりにしたような気分になって、急に懐かしくなる。
慧の見せたのは、クラスの一人一人が出席番号順で並べて作られている、いわゆる写真付きのクラス名簿のページだった。



「うわーっ、俺たちも幼い!」

「当然だろう?」

「でも、やっぱり湊久葉が一番かわいかったよね〜」



込み上げる興奮に、慧からアルバムを引き取り、熱心に眺める。
それから、パラパラとページをめくった。



「コイツがどうした?」

「まぁ……兄さんの、唯一無二であるお墨付きの女の子だったもんね?」

「なっ……別に、僕はそんなつもりじゃ…!」

「あのね、高等部の入学説明会の会場で、湊久葉に似た子を見かけたんだ」



俺の本題の話に突入したのを機会に、急に慧が言葉を失う。
それに『もしもーし?』と声を掛けたが、数秒後に我に返った慧が俺からアルバムを奪い取り、慌てて閉じた。



「……見間違いじゃないのか」



それを取り繕うように咳払いをして、慧はアルバムを元の本棚の位置へと戻した。



「そうかな〜?何処となく顔立ち似てたけど」

「じゃあ、アイツだという確証がつくものが何かあったのか?」

「うーん…、俺の湊久葉センサーが働いたー、とか…かな?」

「……それは、証拠でもなんでもないだろう」

「でも、兄さんはこういう勘こそ大事な気がしない?」

「しないな」



慧が、一段と今日は手厳しい。
彼女についての話題に入り初めの反応まではよかったのに。

だけど、慧が見間違いだって言い切る理由も分からなくはない。

湊久葉は幼稚舎を出てから、そのままエスカレーターではなく、彼女の地元である近隣の市立小学校へ入学したのだ。
それから高校になって、聖帝学園にわざわざ戻ってくる人間などは稀に居ないだろう。



「でも、もしも彼女が本当に湊久葉だったら嬉しいけどなぁ」

「…………」

「あ、兄さんの方が嬉しい??」

「っ…!何故、そうなる!!」



そうだったら嬉しいと感じるのは、俺だけじゃない。
素直じゃないから口に出さないけど、たぶん慧だってそう思ってる。



だって、再び椅子に座って持ち直した本が逆さまだ。




……今、気が付いて直したけど。

確実にテンパってる。







そんな俺たちをもうすぐ春へと迎え入れるのは、高等部への進学。



そして、なにより彼女との再会だった。




090401(訂正) 中條 春瑠


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