君の使った魔法をおしえて
「やっぱり、湊久葉には適わないな……」
「俺は……、他なんて考えられないくらい、湊久葉のことが好き。大好きだよ」
昨日とは全く違った、那智の真っすぐな視線。
それが私を吸い込むように捉える。
「信じて……、いいの?」
「うん、愛してる」
あまりに恥ずかしげもなく発された率直な返事に、私の頬は熱くなる。
「愛してるって、好きより重いんだよ?知ってる?」
「うん。それも知ってて言ったつもりなんだけど?」
フ、と彼の緩ませた表情は男性なのに艶やかで、こんなに至近距離で見ている私はとろけてしまいそうだった。
「顔が真っ赤で、俺の顔もまともに見れない湊久葉は、俺と同じ気持ちだって取っていいのかな〜?」
ドッと恥ずかしさが込み上げるその台詞に、私は顔を伏せる。
「……うっ、うん」
「ね、湊久葉。顔見せて?」
俯いたところで意味なんかなくて、彼は顔を覗き込んで、甘い猫なで声で私に言った。
耐え切れずにそちらを向く。
すると、彼は今度は悪戯っぽく微笑んでみせるから、恥ずかしくてたまらない。
「ごめんね、意地悪しちゃった」
「湊久葉の気持ち、分からなかったし」
それは昨日の話?、と私が問う。
うん、と力なく頷いた那智がなんだか可愛く見えた。
「最近、湊久葉も兄さんも…変わってきてたし」
「え?そうだった、かな…?」
一度、しゅんとした那智は、気を取り直すように淡々と話し始める。
「むかしと全く同じとはちょっと言いがたいけど、湊久葉と兄さんの二人が一緒に居るときって何処か小さい頃の面影も残ってて」
「俺は、そんな二人を身近で見ていることが出来たし、幼い頃を思い出させるそれは、俺を懐かしくて暖かい気持ちにさせてくれて、それをすぐ側で眺めていられることが心地よく感じていたし、好きだった」
「でも、ふとあるときに気が付いた。あのときの二人は純粋に友達として付き合えたけど、この歳じゃ違ってくるんじゃないかって」
「兄さんはずっと、むかしからあからさまだったとして……湊久葉はどうなんだろう?って…」
「慧ちゃんがあからさま?何が?」
「ううん〜。早い者勝ちだから、湊久葉は知らなくてもいいよ〜」
よく分からない言い回しに疑問を抱き、質問したけれど、那智は笑って私の頭を撫でるだけで教えてはくれなかった。
「それから意識してみたけど、やっぱり湊久葉の気持ちは一向に分からなかった」
「逆に3年になったら、ClassZに編入することになった湊久葉の周りには、A4の奴らとか男子ばっかりが増えていって……ある程度の予想まで崩されて」
「だから、俺は焦ってた……のかな?」
湊久葉は大事なトコは隠して表面だけで、本心はなかなか話してくれないから、と再び抱き締められる。
「それに、考えた中で一番に確率が高いのは、自然に話していて笑いが絶えない慧だったし」
「兄さんが相手なら、俺も納得できるし……潔く諦めようとした結果がこんな結末になって、俺もすこし驚いてる」
「そっか…」
ごめんね、とそれに答えるように彼の背中に手を伸ばして抱き締め返す。
湊久葉の所為じゃないでしょ、俺の早とちり、との返事に私は笑った。
「だけどさ、そんな風に私ひとりのコトでも、ずっと真剣に考えてくれるのって、那智だけだよね」
「……んー、だといいけどなぁ〜」
「私は、那智に自分のコトをそうやって考えてもらえていたことがいま一番、嬉しかったよ?」
「ホント??」
「でもね、今の話だとちょっとだけオカシイ部分があるの気が付いてる?」
「ん?何処か変なトコ、あったかな?」
「潔く諦める前に、那智はいつの間に私のコトをそんなにまで気にしてくれるようになったのか、っていうのが抜けてるよ?」
普通に友達なら、ああでもないこうでもないって此処まで真剣に考えたり、焦ったりすることはしないだろう。
先程、改めて好きだとは言われたけれど、そのきっかけが掴めないのだ。
那智が私を好きになるきっかけ、というのは今の話では存在していなくて、いつの間にか好きだったことになってる。
「それって、俺がいつから湊久葉に気ができたのか、聞きたいの?」
「うん、そう」
「んー……、どうしよっかな〜」
「えーー、聞きたいな」
「知りたい〜?」
「うん、知りたい」
那智は抱き締めている腕を、より一層深く回し、私の耳元で小さく息を吸って囁いた。
『内緒』
「それって、答えになってないし!」
「くすくすっ…、そうかな?」
だって、俺も覚えていないくらい前から、
気が付いたら、まるで、当たり前みたいに、君のことが好きになっていたから。
(ねぇ、どんな魔法つかったの?)
090401(訂正) 君の使った魔法をおしえて 中條 春瑠
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