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REBORN!短編
もしもし、応答願います 1827■

「あ、雲雀さんから電話だ!!」

つまらない授業と苦手な数学のダブルパンチにダメツナこと沢田綱吉は具合が悪いとお決まりの台詞を言って屋上で暇を潰していた
暖かい日の下で寝転がる幸せを満喫する
そんな時にかかってきた突然の恋人からの電話

めったに電話をかけてくる事がない雲雀からの電話に胸が踊る

相手を確認してウキウキしながら通話ボタンを押す
「もしもし、雲雀さん?」
「あ、綱吉。またサボってるんだ。いけない子だね」

くぐもった受話器ごしの彼の声はいつも綱吉を夢中にさせる
しかし、何故だか今日の雲雀は様子がおかしいような気がする

「今からそっちに行くから。また屋上でしょう?」
「あ、はい。そうですけど……」

次の瞬間、今まで受話器ごしに聞こえていた声が綱吉の耳元にリアルに響いた


「やあ、到着したよ」

「わわっ!!ひ、雲雀さん!?」

いきなりの事に驚き、思わず綱吉はすっとんきょうな声をあげてしまった

「ふふ、いつみても綱吉の姿には飽きないね」

そう言いながらくしゃくしゃと綱吉の髪を撫でる雲雀の手つきはやはりいつもの彼のものではないようだった

「あの……雲雀さん??」
心のモヤモヤから綱吉の言葉には疑問符が並ぶ

「何?」
「えっと……今日は何かあったんですか??」
「特には何も。あ、こうして綱吉に逢えた事かな??」

普段の雲雀だったら絶対に口にしないであろう言葉が次々と耳に入ってくる

おかしい
絶対におかしい

今日の雲雀さんはおかしすぎる
綱吉がそう確信した時には今まで耳元にあった雲雀の顔が綱吉のそれの数センチ先まで迫っていた


「ちょ、ちょっと雲雀さん………あ……」


「…………やっ……やだっ…………!!」

ドンッ

これまたいつもの雲雀らしくない強引な行動に怖さを感じた綱吉は思わず彼を振り払ってしまった


「くはっ……!!」
「くはっ……??」

全く予想していなかったリアクションに驚く綱吉
何故なら雲雀が、あの雲雀が多分この世界で一番嫌いであろう相手のとても特徴的な口グセを口にしたのだから

「あ、え…………雲雀…………さん??」

綱吉に拒絶され、信じられないとでも言うように目を見開く雲雀を綱吉もまた信じられなかった

「あの……僕…………」

やっと言葉を発した雲雀の口調には焦りの色が隠せない

今のは聞かなかった事にしよう
綱吉がそう決めた瞬間、今度は今までの口調が一変し勝ち誇ったようなものに変わる

「あーあ、バレちゃったか。ま、ここまで近づけたなら上出来かな」
「雲雀さん、な……何言って……」

声も姿も雲雀なのに、明らかに違う何かが自分の前に立っている
綱吉は自分の遅すぎる超直感に悔しさを覚えた


「お前……骸!?」
「そうだよ。やっと気がついたのかい?僕の綱吉」
「そんな……雲雀さんみたいな口調止めろっ!!」
「おやおや、ご機嫌ななめですね。それでは遠慮なく普通に喋らせてもらいますよ。ボンゴレ」

どうやら骸が雲雀に乗り移っているのは確からしく、ため息をつきながら腰に手をあてる仕草は骸の立ち振る舞いそのものだった

何故雲雀に乗り移ったのかは分からなかったが、何よりそんな簡単な事にすら気がつかなかった自分に腹がたった

「骸…………酷い……よ……」

自分の情けなさとあまりにもしれっとした骸の態度に自然と涙が溢れてきた

「ボンゴレッ!?」

こんな事になるとは予想外だった骸は動揺を隠せない
彼はただ、綱吉をちょっとからかうだけのつもりだったのだから
しかし、自分に対しては強い警戒しか抱いてくれない綱吉が雲雀を目の前にすると
あんなに頬を染めて
あんなに綺麗に笑う
それが羨ましく思えた

結果としては綱吉を悲しませてしまった事に深い後悔を覚えながら骸は元の体に戻る事を選んだ

最後に綱吉の髪に触れて雲雀の声で

「愛してる」と囁いて

「え…………」

顔をあげた時にはもう骸は去ったらしく
目の前には正真正銘本物の雲雀が立っていた

「綱吉……」

どうやら雲雀に乗り移られていた記憶はないらしく、何故自分がここにいるのか分からず動揺しているようだ

じゃあ、今の「愛してる」は雲雀が言ったのだろうか
それとも骸が言ったのだろうか
綱吉には分からなかったが、ただ雲雀が元の雲雀に戻ってくれた事で何もかもが許されていく気がした

「僕、何かしたの??」

雲雀に言われて、今まで自分が泣いていた事を思い出した

どうしよう、観られてしまった
不細工な泣き顔を

その事でまた涙が溢れてくる

「綱吉……!?」

訳も分からずただ驚くばかりの雲雀に申し訳なさを感じながらも綱吉に涙をとめる事はできなかった


ぎゅ


「大丈夫、何も観てないから」

無言で抱きしめてくれた雲雀は自分のワイシャツを綱吉のハンカチにする決意をしたらしく、涙でどんどん濡れていくシャツと
それにしがみつく少年を柔らかい目で見つめた
「雲雀……ざん……」

鼻声で何かを伝えようとする綱吉に「何??」と訪ねると、意外な返事が返ってきた


「たまには…………骸を見習ってぐださい……」

あの、クサい台詞を平気で吐くような奴を見習う??
綱吉に言われなければ死んでも御免だが現に今、自分の恋人は泣きじゃくりながら自分の腕の中でそれを望んでいる


仕様がない
今回だけだと心に決めて雲雀は自分の中で一番嫌いな奴の言うであろう台詞を呟く

「綱吉。世界で一番……」
「いちばん??」






「やっぱり無理だ」
「え!?ズルいですよ!!最後まで言って下さい!!」

「ほら、もう泣き止んだならさっさと授業に戻りなよ」
「はあい……」

もう少しであの雲雀の口からこれほど自分の望んでいた言葉を聞けると思ったのに
そんないささか大き過ぎる落胆を抱えたまま屋上を跡にしようとすると


プルルルル……


「雲雀さん……??」


ピッ








「もしもし、応答願います。世界で一番大切な僕だけの王子様」



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あきゅろす。
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