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◇最後の願い(風魔)


ひらり

黒い羽が一つ舞落ちる

それは彼がやってくる知らせ

「ふーま」


名を呼べば彼は現れた。

ふーまはお祖父様の雇った忍者。私の好きな人。
何も話さない人だけど、いつも私の側に居てくれた。
ぎゅぅっと抱きしめるととても安心するの。
いつかはふーまも私の名前を呼んでくれたらいいなと思う。



ふーまはお祖父様と小田原城にいた。私は危ないからと一人別のお城に移された。
ふーまがここにいると言うのなら、きっと戦には勝ったのだ。


「おかえりなさい、ふーま!」

駆け寄ろうとする私を、ふーまは手を伸ばして制した。
途端に動けなくなる体。

(どうして?)

声がだせない。名前が呼べない。
私の声の代わりに聞こえてきたのは



「ごめん」



小さな小さな謝罪の言葉。

初めて聞いた彼の声はとてもとても悲しい響きをしていた。



「約束 守れなくて ごめん」


何を言ってるの?
ふーまはちゃんと帰ってきたよ
私のところに帰ってきたじゃない


「ごめんね」


縛りが解けて動き出す体。
駆け出す両足
抱きしめるために伸ばした両腕


ふーまに触れたその刹那


真っ赤な花を散らして彼は消えてしまった。


「ふーま?」


一人ぼっちの暗い庭で、私はいつまでもふーまの姿を探した。


お祖父様のいる小田原城が落城したという知らせを聞いたのは、日が高く昇りきってからだった。


最後のお願い


(最後の最後、私に会いに来てくれるのなら)(謝罪よりも抱きしめてほしかった)




お題拝借:フォレストブログお題

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あきゅろす。
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