◆進むべき道(政宗) 授業開始のチャイムが校内に響く。バタバタとざわめく音を背に政宗は一人、屋上の階段へと足を伸ばした。 ギギっと錆びついた音を立てながら戸を開く。踏み入れたその場には自分以外の人影は見えなかった。 政宗はポケットからタバコを取り出し、火を点ける。吐き出した紫煙はゆるやかに空へと昇り、風に掻き消された。 「優等生がサボってタバコ吸っちゃダメだよ」 消えたと同時に、それを見計らったかのように声が聞こえた。 だがそれは政宗にとって驚くことではなかった。 「教えたのはアンタだろうがよ、名前先輩」 「いやいや、あたしが教えたのはこの場所だけ。タバコまではやってないよ」 くわえていたタバコを手にとり、給水塔の方へと振りむく。 そこにはやはり、首から上だけを覗かせて手を振る名前の姿があった。 「今日は何時からいたんだ?」 「んー、2時間目から」 「ずいぶんとお暇なことで名前先輩は」 「否定はしないよ。しっかし、伊達から先輩って言われたら違和感あるねぇ」 「アンタにしか言わねぇよ」 政宗は基本的に敬称を使わない。否、使うのはこの学校では名前以外に聞いたことがない。 社会のルールやら年功序列と言うのがそんなに偉いのか、と言うかのような行為だが、この男にはそれが許されるのだ。 そんな政宗に唯一と言っていいほど敬称を使われる名前としては、どこかそれが嬉しいような気がした。 「ま、それもあと一ヶ月かぁ」 時は既に2月が終わろうとしていた。高3である名前は3月になればすぐに卒業する。 高3の授受はすでに終わり、登校義務はないのだが、名前は何をするわけでもなく、こうしてきまぐれに来ては屋上で時間を過ごしている。 俯せでいると胸が圧迫されて苦しい。ごろりと仰向けになって名前は空を見上げた。 政宗はというと、名前がいる給水塔のすぐ下に座り込み、再びタバコを燻らせた。 「伊達は将来どうすんの?やっぱり家継ぐの?」 「まぁな」 「安泰で羨ましいねぇ」 「アンタは?」 「ん?」 「卒業したらどうすんだ?」 「んー…普通に大学入って卒業、そこそこの会社に入って、普通に恋愛して寿退社じゃない?」 「つまんねぇな」 「そんなもんだよ」 この世界の大半はつまらないことだ。それが普通だ。政宗のような輝かしい将来を約束された道の方が稀なのだ。 「アンタにゃ似合わねぇよ」 かしゃん、と梯が軋む音がした。 「伊達?」 「よっと」 青空を影が遮る。 彼は一気に梯を蹴り上がり、名前を跨ぐように着地した。 見下ろされる名前、見下ろす政宗。 「アンタにそんな人生は似合わねぇよ」 「俺妻のになるぐらいのそーいう人生の方がお似合いだぜ?」 君の進むべき道 (……プロポーズは18歳にならないとできないんだよ) (それはYesと受け取るぜ?18になったらすぐに迎えに行ってやる) (拒否権は?) (ねぇな。異論もねぇだろ?) [*前へ][次へ#] [戻る] |