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◆君がほしい(幸村)



今日はバレンタイン前日。

教室では女の子達が集まってチョコの話で盛り上がっている。男子たちは少し居心地悪そうだったが、気になるのか時折ちらちらと視線を送ってくる。

私も例にもれずそのバレンタイントーク真っ最中だった。ただし、あくまでも聞いているだけで私自身あまりバレンタインに積極的ではない。


「名前はどうするの?」

「うーん、今年も家族だけかな」
「なにそれ色気なーい」

「私たちにもくれないの?」

「だってキリないじゃん。ホワイトデーに三倍返しであげるから」

「やったぁ!」

「名前のお菓子っておいしいから楽しみー!」


そんなにも喜ぶことかねぇと思いつつ、そろそろ話題を転換しよう。


「ところでみんなは誰にあげるの?」

と聞けば案の定すぐに「そりゃぁ政宗君!」と返ってきた。


「えー?政宗君は倍率高くない?」

「いいじゃん渡すだけは自由だし!」

「私はねぇ、長曽我部先輩!」

「お、穴狙い?」

「し、失礼な!あの先輩怖いけど優しいんだからね!」

「長曽我部先輩って男からももらいそうだよねー」

「それ言うなら猿飛くんも誰かに渡しそうじゃない?」

「家庭科部で教えるぐらいだもんね。家で判定とかしてそう!」

「渡しにくーい!それならむしろ逆チョコもらいたいよね!」

「ねー!」


そんなことを話していたとき、急に入口の方が騒がしくなった。
何事かとみんなでそっちを見遣ると、そこにいたのは


「あれ、真田くんじゃん」

「ホントだ。誰に用だろ?」


別クラスの真田くんだった。彼も政宗くんと同様、この学校内のモテる人トップテンに入る美貌の持ち主だ。用がなくてもこの時期だ。いやでも注目を浴びるだろう。

彼は集まってきた男子を押しのけて、ツカツカとこちらに歩み寄ってきた。そして


「名前殿!!」

「は、はいっ」


何故かいきなり、私の名前を呼んだ。その声の強さに思わず敬語になる。

シンとなる教室。
すべての視線が彼に注がれる中、真田くんはもう一度私を呼んだ。


「名前殿」

「はい」


「某は、名前殿のチョコをいただきたく存じまする」


「はい……い!?」


流れで返事をしてしまったが、いきなり何を、と私の頭はパニックになったのに、真田くんはさらに続けた。

「さらに言えば、名前殿の本命も義理も友もすべてをいただきとうございます」

「はい!?」

「名前殿のすべてを某に下され」

「すべてのチョコですよね、すべてのチョコですね、ちょっと待って真田くん落ち着こうか」

「待ちませ、ぬ」

「え?」


散々爆弾発言をして、グラリと真田くんが傾いた。


バタン

「ちょ、真田くん!?」

「おい大丈夫か!?真田!!」

「誰か、猿飛呼んでこい!!」



真田くんが倒れた音とともに静寂が破られ、再び騒がしくなる教室。
すぐに猿飛君が現れて、真田くんは彼に抱えられて教室を出ていった。

「な、何だったんだろ……」



後で聞いた話だが、真田くんは熱があったそうだ。
熱のせいで普段ならありもしない行動に走ったのか、あるいは、熱があったからこそ言えた言葉なのか、私には分からない。


ただ、帰り道、材料を一人分多く買っていこうと、そう思った。



君がほしい




(二日後、一日遅れのバレンタインデー)(渡したとき真田くんは照れ臭そうに、でもとても嬉しそうに笑ってくれた)


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あきゅろす。
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