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◆邂逅(蒼紅)



携帯を開いて時刻を確かめる。
数字は10を表していた。

登校は確か9時まで。そして入学式は10時からだったと記憶している。入学早々遅刻になろうとは、つくづく災難に巻き込まれる自分の運命を嘆いた。



今私がいるところは、紅白幕で飾られた明るい体育館、ではなくて、どっかの狭い裏路地。

聞こえてくるのは校歌でも国家でも長ったらしい校長先生の話でもなくて、ドカバキっと何かが壊れたり折れたりする破壊音と男達の下品な阿鼻叫喚。

あ、今誰かの骨が折れた音がした。



最初10人もいた男たちは今や3人だけになっていて、震える足で対峙する二人の男に向かって叫ぶ。


「てめぇらぁ……いきなりこんなことしやがって、何様だ!!」

「女一人に多数で襲いかかるような輩に名乗る名などない!!」


赤い鉢巻きをした古風な話し方をする男が、凛とした声で言い返す。

「そー言うこった。どうせ女と遊ぶならよぉ、もっとcoolに行こうぜ?You see?」


もう一方の黒髪に隻眼の男は、乱れた髪をかき揚げて余裕そうな笑いを浮かべている。
話しているとときどき英語が混じるが、それが妙によく似合っていた。


と、ここで怯えていたうちの一人が急に「思い出した!」と声を張り上げた。


「隻眼に英語……こいつ、東中の独眼竜・伊達政宗だ!!」

「That's right」

だが答えた瞬間、叫んだ彼は、その竜に顔をわし掴まれた。ギリッと力を込めたのが遠目からでも分かる。


「だが、気づくのが遅すぎたな」

「ぐぁ…あ…!!……っ!?」

「さっさと逃げ出した方が得策だったのによ」


じたばたともがいていた奴も、やがて糸が切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちた。


「なんと、そなたが伊達政宗か!!何時か手合わせ願いたいと思っておりました」

「なんならこの後やるか?俺は大歓迎だぜ?」

「望むところにござる!」


残党をほっぽいて盛り上がり出した二人。鉢巻き少年の足元にはいつの間にかまた骸が1つ増えていた。いや、生きてるけど。

ラスト一人。どちらが仕留めるか、じりじりと距離を縮める二人。追い詰められた男は何故かちらりとこちらを見て、薄く笑った。

「女だけでもやれぇぇぇ!!」

「おらぁぁぁぁ!!!!」

二人の拳がその体に入るのと同時に、私の影が大きく塗りつぶされた。殴られたふりをして一人私の後ろにいたらしい。

「しまった!!」
「shit!!」

二人が即座にこちらに向かおうとするが間に合うわけがないだろう。私は拳を作ると

がっ

「あ゙……!?」


振り向き様にその男の鼻っ柱に打ち込んでやった。
アスファルトに落ちる男の体。あぁ、指が痛い。


「たらし兄のせいで、伊達に報復され慣れてる訳じゃないんだよ」


こうなった全ての元凶である兄、前田慶次の顔を思い浮かべて、私はため息をつかずにはいられなかった。





「名前ちゃーん?」


名を呼ばれて振り替えれば、見慣れぬ数人の男がにやにや笑いながらと私を見ていた。

「ちょーっと顔貸してくれないかなぁ?」

「君のお兄さんについてなんだけどさぁ」


君のお兄さん。


その単語を聞いたとき、げぇっと思いきり顔をしかめた。
またか。あのバカ兄貴は。

「何なんです?あなた達も前田慶次に彼女とられたって口ですか?」

「そーだよ!!ちくしょうあの野郎、『恋はいいねぇ』とか言いながらてめぇがたった今恋の花枯らせたんじゃねぇか俺のさおりちゃんがぁぁぁ」


おおかた兄のスマイルキラーにやられた彼女さんにフラれたんだろう。
あぁ、このパターンも何度目か。計算とか意識してないところがさらに質悪い。

「ご愁傷様です。で、私になんの関係が?」

「大有りだよ!俺らは前田の野郎に仕返ししてやるんだ」

「前田はかなりのシスコンらしいからな」

「アンタを盾にすれば、奴は手が出せねぇてっこと」


なんて短絡的なんだろうか。呆れてしまう。そもそもそんな手を使う時点でもう兄に負けてるようなものなのに。

「まぁ大人しくついてきてくれたら何もしないよ……多分ね」

にやりと気味の悪い笑顔を浮かべて私の手を引く。
人通りの多いところで騒ぐと後が面倒なので大人しく路地裏に連れていかれた。


そしていざ暴れるかと言うときに、どこからか二人の男が乱入し、今に至ると言うわけである。




三人しか立つものがいなくなった路地裏。
制服についた埃を払って二人に駆け寄る


「助けてくれてありがと」

「いえ、某は」

「さっきのじゃぁいらなかったかもしれねーけどな」

「とりあえず服は汚れずにすんだから」

私だけではない。あれだけ暴れたにも関わらず、二人の制服にはそれほど目立った汚れがついていないのだ。

感心すると同時にその制服がひどく見慣れたものであることに今さらながら気がついた。


「ねぇ、二人も婆沙高でしょ?入学式始まってるけど大丈夫?」

「もともとサボる気だったから問題ねぇ」

どうでもいいと言うように明後日を向く眼帯少年に対し、

「なっ…!?いかん、佐助に怒られるでござらぁぁぁ……」

先ほどまで荒々しく男を吹っ飛ばしていたときと違って、鉢巻き少年は大袈裟とも言えるぐらい膝をついて嘆き始めた。


「私の問題に巻き込んじゃったから事情説明にいくよ」

もっと正しく言えば兄の問題なのだが。

「忝ない、えっとそなたの名前は」

「この際だ、全員自己紹介しとこうぜ」

「そうだね」


「改めて伊達政宗だ。よろしくな」

「真田幸村と申す」

「前田名前。よろしくね」


それが、三人が初めて会った日のことだった。



(あー!やっときたよ名前!遅刻するなよーってちゃんと兄ちゃん言ったろ?)

(アンタのせいでまた巻き込まれたの!!彼氏ある女に近づくなって何度言ったら分かるんだこんの年中脳内春男!!)

(だって恋は止められないからしょうがねーじゃん)

(前田って風来坊の妹か。そりゃ強いわな)

(名前殿、勇ましいでござる)




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