◆空を満たす人(元親)
ふいに、心が空っぽになるときがある。考えるのがめんどくさくて、なのに心は重くて。何をすればいいのか。座り込んでぼーっと天井を見上げる。
(誰か)
(誰か、抱き締めて)
満たしてほしい。
この心を。
軽くしてほしい。
温もりがほしい。
ぽっかりと空いてしまったこの空虚を埋めなければ、私は
何かをしなければならないのに、体は動くことを拒絶する。なんだか心と体が離れてしまったみたい。
「名前」
視界に飛び込んだ白髪。
「……?」
距離は近くなり、熱が伝わる。
右から左から太い腕が延びてきて、ぎゅっと抱き締められた。背中もぴったりと隙間なく密着して私の頭の上に彼は自分の頭を乗せた。
「元親」
「おぅ」
「重い」
「そーかい」
「何」
「抱き締めたくなった」
ぎゅっと少しだけ全身を抱き締める力が強くなる。
元親は、いつも私が抱き締めてほしいと思ったときにこうして抱き締めてくる。それが偶然なのか、それとも何か感じるものがあるのか。でもなんとなく聞くのは私から甘えているみたいで嫌だった。
「大丈夫だ」
「何が」
「なんとなく」
昔から、甘えることができない性格だった。だけど何かを求めずにはいられないから、心は乾くばかりだった。
元親にはそんな心を看破されていたのだろうか。今だって、甘えられているようで、甘えているのはホントは私なのだ。
砂時計の砂が時間と共につもりゆくように、心の中にさらさらと何がが降り積もる。
「大丈夫だ」
元親の声がどうしようもなくあったかくて、空っぽの心がフッと軽くなったような気がした。
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