◆ごめん寝てた、と嘘をつく(家康)
真夜中過ぎに携帯がなった。
夢か現かまだ分からないままに反射的に手を伸ばして電源を入れる。
『名前?起きてたのか』
電話口から聞こえたのは、仲のよい男友達の家康だった。
『寝ていたらすまなかったな。
ただ、どうしてもお前に言いたいことがあるんだ』
あーとかうんとか、言葉にならない声で答える。家康が受話器の向こうで小さく笑うのが聞こえた。
『ワシな、お前が―――』
覚醒しそうになった意識を無理矢理押さえて、ゆっくりと私は電源ボタンを押した。携帯の光が消えた真っ暗の部屋の中で、いつまでも家康の声がこだましたように感じた。
ぼんやりと再び眠気が襲ってきて、私は意識を手放した。
真っ暗な夢を、音と共に光が切り裂いた。音と言うよりももしかしたらそれは誰かの声だったのかもしれないけど。
目を開けると、窓から差し込む朝日がやけに目に染みた。目覚まし時計を見れば時刻は6時7分。
そのまま時計の隣に置いてあった携帯を手にとった。
着信履歴に『徳川家康』の文字を確認して通話ボタンを押す。
二、三回のコール音の後、『もしもし?』といつもと変わらない家康の声がした。
「おはよう、家康」
『あぁおはよう。珍しいな、お前が朝から電話など。もしかして』
「昨日、というか真夜中電話した?」
『え?』
「着信履歴チェックしたら家康の名前があって、しかも夜中だったしさ」
『あ、あぁ。繋がったんだが、覚えてないのか』
家康の声が、何かを期待するような、すがるような声色に変わった。
一瞬だけ、脳裏にこだまする声。
ワシな、お前が―――
でもそれは、夜が見せた、ただの夢だと否定して。
ごめん寝てた、と嘘をつく
やさしい貴方は、それを信じて何もなかったことにするのでしょう。
『そうか。いや、悪かったな。そんなに大した用じゃなかったんだ』
「ううん、こっちこそごめんね」
二つの意味を込めて、もう一度「ごめん」と繰り返した。
(この距離を壊すのが怖かった)
(あなたの思いを受け止められないのが怖かった)
(臆病で卑怯な私を、それでも貴方は許してくれるのですか)
お題拝借:フォレストブログお題
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