2008クリスマス(葵) Kissing to you holy night. 夜空に映えるきらきらしたイルミネーションが景色を飾り立てて、街並みは宝石箱みたい。 どこからか聞こえてくるクリスマスソングや、何となくうかれた雰囲気は、わたしの胸をわくわくさせる。 「足、疲れてないか?」 「大丈夫ですよ。まだまだ歩けます」 今年のクリスマスは、葵理事と二人きりでデート。 巷で噂の人気レストランを予約してくれたらしく、わたし達はそこに向かっていた。 「やっぱり車出した方がよかったんじゃねーの?」 葵理事は時折北風に震えながら、苦笑した。 最初の予定では車だったのだけど、それほど遠くも無いし、わたしから歩きで行く事を提案したのだった。 「たまにはいいじゃないですか。歩くのも楽しいですよ」 「そりゃそうだけど…」 やっぱさみーよ、と言って葵理事は肩をすくめる。 「この前一緒にお酒飲もうって話してたじゃないですか。それに、いつも出かける時は送ってもらってばかりだし」 今日行くレストランは、料理だけではなくワインも絶品らしい。 車で来ればお酒は当然飲めないから、徒歩で行くことを希望したのだ。 「それくらい、オレはお前の為だったらなんてことねーの。仮にせんせが大酔っぱらいしても、ちゃんと素面で送り届けるよ」 「…それはありがたいですけど、わたしは大酔っぱらいする程飲みません」 「そうだよな。それだとオレは完璧お持ち帰りか送りオオカミだから。正直、その方が都合はいいんだけど」 …葵理事の前でへべれけになったら危険だ。 「とにかく、わたしは葵理事を差し置いてお酒を飲んだりもしません。美味しいものや嬉しいことは、葵理事と二人で楽しみたいんです」 分かち合ってこそ、喜びは増えるから。 楽しみは一緒に経験していきたい。 ううん、楽しみだけじゃなくて、悲しいことも苦しいことも、葵理事とならなんだって一緒に乗り越えたい。 「サンキュ。お前のそういう所好きだぜ」 「…どうも」 「せんせ、照れてる」 「葵理事はストレート過ぎるんです」 ストレートだから、嬉しい反面、かわせなくて。 単純なわたしは、こんなときにいつも舞い上がってしまうんだ。 「…『好き』って気持ちは、ストレートに伝えたいんだよ」 「葵理事…」 「相手がお前なら、尚更な」 不安にさせたくないから、と葵理事は言ってくれた。 キザな台詞が、今日に限ってはとびきりかっこいい王子様の決め台詞みたい。 きっと、それは街路樹の電飾の暖かな光と、クリスマスソングが作り出したムードのせいだと自分に言い聞かせた。 「葵理事の気持ちは、ちゃんとわたしに伝わってますから」 「ああ」 「わたしも、葵理事が大好きです」 自分でも驚くほど素直に、「好き」って言葉が言えた。 嘘偽りの無い、わたしの心からの気持ちだから。 「愛してる、せんせ」 そう言われた途端、ふいに唇が重ねられた。 「…こんなに人がいっぱいいる所で」 「続きは食事が終わったらな」 「…はい」 今度は、どちらからともなくキスをした。 ほのかに伝わる体温が、冷えた唇を撫でる。 耳の奥で、サンタの鈴の音が聞こえた気がした。 葵理事を大切に思う気持ちが更に深まった、聖なる夜。 メリークリスマス。 大好きです。葵理事。 [*前へ][次へ#] |