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2008クリスマス(桔梗)

Wish to the white snow.




「桔梗先生、できましたっ」


他の教員は帰宅して、それは静かながらんとした教員室内。
わたしはそこで桔梗先生のお手伝いをしていた。



「ありがとうございます、先生。これで年内の仕事は全て片づきました」



桔梗先生は学年主任になってから、一段と仕事が増えた。

授業についての仕事もきっちりこなす上に、主任となったら更にやることは山積み。

でも、さすがは桔梗先生。今年からずっと学年をきちんと取りまとめている。



「先生のおかげで、大分楽をさせてもらいました」


「わたしは、簡単な仕事をしただけです」


「いえ。わたしだけでは、とても終わる量ではありませんから」



結局、わたしは雑用程度の作業しかできなかったけど。
それでも、少しでも桔梗先生の役に立ちたかった。



「せっかくのクリスマスに、こんな事をさせてしまって。本当に申し訳ありません」


「そんな、謝らないでください。わたしが桔梗先生のお手伝いをしたかったんですから」



わたしがそう言うと、桔梗先生はクスリと笑った。



「お手伝いをさせてしまったのもそうです。が、」


「?」


「先生と二人きりでいられたから、ラッキーだと思ってしまったんです」


「ラッキーって…」


「最近、わたしを構ってくれないからですよ?」



物腰は穏やかだけど、桔梗先生はじりじりと近寄ってくる。

こんな時、桔梗先生はちょっと強引で、それはわたしの前でだけだから少し嬉しく感じてしまう。



「あの、桔梗先生」


「なんでしょう」


「わたしだって、寂しかったんです。最近は、ちゃんとお話できる時間がなかったから」



わたしもクラスを受け持つようになって、バタバタしてしまっていた。

やりがいもあるし、少しは教師として成長できたのかもしれないけど。

桔梗先生と接する時間は自ずと減ってしまって、寂しかった。



「素直ないい子ですね。先生」


「あ、ありがとうございます…」


「素直ないい子には、ご褒美を―」


「ちょ、ちょっと桔梗先生…!あ、ほらほら!見て下さい!雪ですよ、雪!」



近すぎて、唇さえ触れそうになって。
わたしは慌てて、窓から見える、はらはら舞い降りる雪を指さした。

桔梗先生の腕から逃げ出して窓の外を眺めるわたしを、彼はやれやれ、といったふうに笑った。



「雪、ですか」

「は、はい」



今更そんなに緊張なさらなくても、と桔梗先生はわたしの肩に手を置いた。
この時は、いつもひんやりした桔梗先生の手が暖かかった。



「ホワイトクリスマスですね」


「ええ」


「先生が隣にいて、聖夜に雪が降って。こんなに幸せなクリスマスは初めてですよ」


「…わたしもです。桔梗先生」



好きな人が、隣にいる。
それだけで、なんて幸せな気持ちになれるんだろう。



「景色のいい所を知ってるんです」


「桔梗先生?」


「今夜は、あなたを独り占めしたい」



いいですか?



桔梗先生はわたしの手を取って、そう訊いた。

それは、いつかの、ずっと離しませんよ、と言ってくれた時のように。



「独り占め、してください」



今夜はきっとあなた以外見えないから。

雪が静かに降るこんなクリスマスの夜は、わたしも桔梗先生を独り占めしたいです。



「先生」



桔梗先生の指が、わたしの唇をなぞる。

わたしは、桔梗先生の目を見つめ返して、ゆっくり一度頷いた。

重なる唇、重なる想い。
こんなに心満たされる一時は、最高のプレゼントです。



メリークリスマス。



ずっとずっと、そばにいて下さい。
桔梗先生。


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あきゅろす。
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