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モンロー効果
めぐり逢い
 それからの隆と言えば、自分でもどういう訳か、本人が公認した上に応援までしている人物の観察そして妥当を目標に毎日を過ごしていた。

まぁ、一言に観察すると言ってみても、各授業中に、各教師に質問をするというクラスメイトからしてみれば迷惑でしかない事なのだが。

隆のたりない思考ではそこまでしか思いつかないのだから、我慢してもらうしかないのである。

教師が、此処までで質問はないかと一度聞けば、すぐさま隆は待ってましたと言わんばかりに飛びついた。

「先生!隣のクラスの野島君はこんな時どんな解答でしたか」

正直な話、教師たちは急に元気になった隆に驚き喜びもしていたが、この質問は苛立ち不可避と言うものだった。

また、特に質問をする場面でなくても、授業が終わる雰囲気になると手を上げているのが隆だ。

「質問いいですか?野島君は先日の小テスト、何点でしたか!」

この隆の態度の変わりようには、先日まで彼を追いつめる側だった流石のクラスメイトも、呆気にとられるより他なかった。

この数日間に、一体、野島隆の身に何が起こったというのか。
そう言えば委員会も真面目にやっているらしい。
彼らの中で、ますます謎は深まるばかりだった。

生徒が真面目になるのは良い事の筈なのに、何故か隆の場合は、怪しまれ敬遠されるばかりだった。

それは、隆と野島真里が親戚同士と言う関係性を知っている教師ですら、急に真里を意識しだした隆に驚きを覚えずにはいられなくなってしまうのだ。

その内、教師達は全員、いちいち答えるのも面倒だと思うようになった。と言うか、現に何人かは面倒だとはっきり言っていた。

そして、口々に、まるで呪文でも唱えるように返事をするようになった。
「自分達でメールでも何でもして聞いて下さいよ。
全く付き合ってられんわ……」と。

 その事を、相談するつもりはなかったのだが話の種にとオブラートを何重にも重ねた状態で、夕食中の母親にやんわりと話した。

野島家は総動員数2人の家族全員が揃うと、団らんとした食事が始まるのだが、意外と会話が多いのが特徴だ。
隆の話を聞くや否や母は、またしても、明快に笑って逆に息子に聞き返すのだった。こういうところは、隆は全く受け継いでいない。

「アンタ達、まだメールアドレスの一つも交換してないなんてね!」

びっくりだと言われて、隆が逆に驚いたくらいだ。
彼女の中では、隆と真里はもうとっくのとうに親友よろしく仲良くなっていて、毎日のようにメールをしていると思っていたようだった。

想像と全く違う状況である事を少しだけ恥じながら、隆は俯く。
それもその筈である。つい先日初めてよくやく会話らしい言葉を交わしたばかりの顔しか知らない親戚と、どうやってコミュニケーションをとれと言うのか。

大体、メールアドレスを知った所で、お互いの共通点など知る由もない二人には、特にこれと言ってする会話がないように感じた。

だからこそ、自分勝手に振り回すかのように、テストの時や勉強についてだけ聞くなんて、と隆には親戚だからといって失礼な事に思えたのだ。

 でも少し一度立ち止まって考えてみると、あの真里がメールをするところが想像できなかったりもした。
それなら、知らないのにも理由がつけられそうだ。

もっと知りたいと思いながら、知らなくてもいい理由を頭の中で投げ出す。
それは、逃げというより他ないのではないだろうか。

『急募 親戚とメールアドレスを交換する方法』そんなどうしようもないツイートをネットに投げ出したくなって、それを消してを繰り返す。

まわりの誰もが簡単にできるはずの事なのに、久しぶりにあったという事実一つが立ち止まらせる。

 何故こんなにも真里の事を思うとやきもきしてしまうのか。
その簡単すぎる事実を、隆は気づかないように蓋をした。

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