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モンロー効果

 まさか、あのあんなに会いたかった『ノジマ君』と、『親戚のマリちゃん』が同一人物だったとは、誰が想像出来たであろうか。

母親はのんびりあっさりと言っていたが、隆にとっては一大事だった。

だって今の今までマリちゃんは女の子だと思っていたのだ。
ノジマ君は確かに男の子の姿をしていたし制服もそうだったが、顔は成長したマリちゃんそのものだった。

 マリちゃんと初めて会ったのは、何時の事だっただろうか。
記憶が確かであれば、親戚がたくさん集まる何かの行事で、自分の誕生日を祝っている時に来てくれていたのが最初だったと隆は回想してみていた。
その時の彼はと言えば、さらりとした髪が可愛らしく、マリちゃんなんて呼ばれていたものだから、正に女の子に見えていた。

(今にして思えば、小さい男の子に女の子の格好をさせて健康を祈願するとかいうマンガにありがちなヤツだったんかな……)

人数が多かったからこそ、会話こそしなかったが、幼稚園の年中にしては礼儀正しくお辞儀をされた事を覚えている。
そしてそれこそが、実は今現在の隆の美女好きのルーツになっていた。

正直な話、一目で見とれきってしまっていた事は、認めざるを得ない。

「そう言えば、あの時から真面目っぽかったと言うか……無表情だったな」

ぽつり、呟いてみた言葉は少しだけ寂しい言葉だった。
 −初めて会ったあの日、何か一言でも交わしていたなら。次に会った時、一緒に遊んだりしていたなら−
今この状況も少しは嬉しかったんじゃないだろうか。
そこまで考えて、隆は頭を振る。自分とあのマリちゃんが楽しく遊ぶだなんて姿が、どうにも想像がつかなかったからだ。

それにこの話は全て今更。後になって何かを思っていようと、過去の自分とマリちゃんがどう変わる訳でもない。

 次の日の朝。折角芽生えかけたやる気が、何となく行き場を失ってポケットへと戻っていくような、そんな感覚がしていた。
本当に久しぶりに、熱中できそうな、それこそ変われそうなくらいだったのだ。
隆はなんとか消沈するのだけは考え直さなければ、と唾を飲み込んだ。

(たかが、親戚と比べられていた位で学校を辞める訳にもいかないしな)

学費とか。両親には、これ以上迷惑をかけられないし、何より、そろそろ何かに真剣に取り組んでみろと言われていたのだ。
今度こそ、人生で初めてのやる気をしっかりと掴んだ隆は、改めて、ノジマ君を参考にしてやろうじゃないかと決心するのだった。
むしろ、こんなにワクワクできるんだから、彼には感謝こそすれ、ショックだなんて思うのは失礼に違いない。

「俺だってやる気のある真面目君になってやるさ」

道ばたで一人バンザイをすると、変質者が何故下半身を露出するのか理解してしまいそうな爽快感があった。
分かりたくもないが、ちょっとキモチイイ。
朝とは不思議なものだ。

すると誰もいないと思っていたはずの背後から声をかけられた。

「凄いな。それ応援してもいい?」

それに、誰かが淡々と返事をする。何となく楽しくなっている隆は、それが誰であるかには未だ気づかない。

「おうともよ!妥当・ノジマ君ことマリちゃん!」
「妥当しなきゃならないくらい強くないけど」

強くないけど、の、けど、までを聞いた瞬間、隆はあっと言う間に頭が冴えていくのを感じた。
てっきりクラスメイトか何かだと思っていたのに。
自分は今、一体誰と会話をしてしまったのだろうか……。

ゆっくりと横を向いて、自分より少しだけ高い背を確認するや否や、隆は絶句した。

「おはようございます」

正面の学校方面だけを見つめて、眉を少しも動かさずにマリちゃんはそうっと口を開く。

「俺、マリちゃんじゃなくて真里(マサト)って言うんだけど」
「知らなかった……デス」

もしかして知らなかった?
冷たく呟くその姿に、思わず敬語になってしまう隆に、ノジマ君ことマリちゃんこと真里は、そう、とだけ返事をした。

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