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モンロー効果

 自らのクラスの点検をなんとか終えた隆は、続いてAクラスの点検を行っていた。
委員会の他の人はどうやっているかは知らないが、各クラス一枚ずつのチェックシートで、順番はあまり関係ない物なのだ。

隆は敢えて、時間がかかって人が少なくなる時間帯にBクラスを最後に点検しようと企んだ。

(メインディッシュはもちろんお前だぜ……ノジマ!!)

さながら悪の魔王のような事を考えている隆だが、その実、本来の目的であるBクラスを終えた後にAクラスをクソ真面目にこなす自信がないだけだったりする。

自分の本音に目を瞑って、隆はひたすらにチェックシートを埋めていった。
隆は休み時間ごとに点検を行っていた。だからこそ、最後の最後であるBクラスは食後の昼休憩時になってしまっていた。

 他の委員会の生徒なら、もっと素早くかつ的確に出来るのにな。
隆はため息を一つ、深呼吸を二回ほどしてからBクラスのドアを叩く。
休み時間だからだろうか、教室内からは小さな返事しか返ってこなかった。

「失礼します!整備委員会の教室点検の者ですが、備品チェック入ります」

いよいよだ。そう思いながら、何故かまるで恋をしているかのように高鳴る胸を抑えて隆はドアを開ける。
するとそこには、隆にとって、予想外の人物が立っていた。

「はい。どうぞ」

ロングトーンのボイスに顔を上げると、自分より少しだけ高く、しかしそう大差ない身長が目に入る。

そして、本人の性格と同じように癖のない真っ直ぐな髪がそっと揺れる。
この人物を、隆はずっと前から知っているような気がした。
記憶が、奥底の方から波のように押し寄せてきた。
可愛らしいワンピースに身を包んだ、あの。

「マリ……ちゃん?」

知っていた、と言っても、親戚の集まりや母親に連れられて遊びに行った先で会ったくらいの、ほんの顔見知りである遠い親戚だった。

それと同時に、何か鮮烈に思い出しそうだったのだが、それはなんとか消えていった。

「隆君だったっけ。そう言えば同じ学校だったと聞いてはいたけど」

整備委員だったのか。無表情のまま、目の前の人物は、淡々とそう述べる。

隆は、何の気なしに立ち去っていく背中を目前に、頭の中が真っ白になるのをなんとか堪えるしかなかった。
自分だって知っていたのだから、向こうだって知っているに決まっているじゃないか。

 あの後、『マリちゃん』と再会してからの記憶があやふやなまま、隆は気がつけば自宅のベッドの上でぼんやりと目を開けていた。
点と点が、うっすらと線で繋がったような違和感を覚えながら必死に点検をして、急いでB組を出ようとした隆を、マリちゃんはずっと見ていた。
何かを言いたげという訳でもなく、ただただ無表情なその目線が、隆を早く此処から出なければという気持ちにさせていた。
あんなに期待に胸をおどらせていたはずのBクラスが、地獄のように感じた。
正直、点検がちゃんとできていたかもあやふやで、委員長ゴメンと思わないわけでもなかった。

 「タカシー!夕飯出来たからちゃっちゃと食べちゃってー!」
その時、階下からの母親の声に、隆ははっとして起き上がった。
隆の中にある違和感の正体を、彼女は確実に知っているからだ。
何より、隠していたのが許せなかった。

 「マリちゃん?あんたまだマリちゃんと会ってなかったの?」

隆が意を決して問いただすと、母親は特に動揺する様子も見せず、あっけらかんと返事をした。

「でも最初は驚いたわよ。アンタあのマリちゃんと同じ高校いきたいとか言い出すもんだから」

頬に手を添えてわざとらしく言う姿は正しく自分の母親なのだな。
そんな事を考えている場合ではなかったのだが、拍子抜けした隆は小さな声で反論するのがやっとだった。

「マリちゃんと一緒だなんて知ってたら別の所にしてたよ!」

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あきゅろす。
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