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モンロー効果
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 電車に揺られる事数十分。
隆の家から比較的近い距離にその遊園地はあった。
もちろん、真里の家からもアクセスは可能であるが、無縁の存在のせいか入園するのはこれが初めてとなる。

「乗り物に乗るならやっぱりフリーパスだよな」
「チケットにも種類があるんだ、映画館とかとは違うんだね」

可愛らしいウサギのキャラクターが描かれたパスポートを腕に装着し、二人は意気揚々と戦場−園内−へと乗り込む。
パスポートをバーコードを係員がスキャンする事で、乗り物に乗るタイプのようだ。

「隆君が最初に乗りたいのはバイキングだったっけ」
「それもそうなんだけどっ時間はいっぱいあるんだし端から端まで行ってみないか?」

本当にアトラクションが大好きなのだろう。
隆の弾むような声色を聞いていると、真里もついつい楽しくなってしまうのだった。

 最初に二人が乗ったのは、2人乗りの回転物だった。
前に回転するタイプのものだが、時折水平に押し上げられ、投げ出されるかのようなスリルを味わえると評判のものだった。
バレンタインデーが近いせいか、列にはカップルが多く並んでいる。

「人生初めての乗り物だから、お手柔らかに」

そう言っていた真里だったが、隆の、『怖かったら腕掴んでもいいよ権』を手にしてからは、無敵の状態に覚醒してしまった。

次々にアトラクションを制覇し、辞めておこうと制止する隆を振り切り、座席が回転しながら落下するジェットコースターに乗ると、満悦至極といった様子で言った。
「次は、キャラクターに会いに行こう!!」と。

初めて来た遊園地だったせいもあるが、何より隆が来たいと行った場所だ。
真里にとって、退屈する場所な筈がなかった。

 ウサギのキャラクターと写真を撮る場面になっても、真里は順番を待っている間、ポーズに悩んでしまっていた。
もっといいカメラを持ってくれば良かったと嘆く真里に、隆がまた来ればいいと言うも、彼は首を振って隆に告げるのだ。

『初めての遊園地デートは二度とない』と。

結局出来た写真は、二人とも半目開きの微妙なものであったが、それでも真里は感動したように、その写真を大切にしまうものだから、隆もついついしんみりとした。

 コーヒーカップのお互いしか見えないという感覚を味わい二人がすっかりバカップルそのものになった頃、遊園地は閉園を告げるチャイムが鳴りそうな時刻になっていた。

「なんだか、帰りたくないな」

と隆が呟くと、不意にその手を引かれる。真里だ。
黙って一カ所へと突き進む真里に、されるがままついていくと、そこには観覧車が待っていた。

「デートのラストっぽいでしょ」

これでも俺、考えてきてるんだ。
そんな事を言われてしまえば、もう隆は黙って頷くしかなかった。

 少しずつ登っていく篭の中で、隆は、真里に告白された翌日の朝を思い浮かべていた。
前日の事は本当に夢みたいで、次の日になっても夢だと思って、玄関を開けたら真里が見えたのだ。

「あの時は本当に驚かされたな」
「隆君、今何か言った?」
「ううん、何でも。それより外見て見ろよ、夜景」

まるで彼氏のような科白だと思いながら、隆も外を見る。
まばゆいくらいに輝く夜明かりは、月からこぼれ落ちたしずくのようだ。
ふと、真里が隆に向きなおり問いかける。

「今、俺が何を考えてるかわかる?」
「いやいや。でも俺は、これを降りた後もずっと一緒にいたいって思ってる」
「俺も同じだよ。一緒がいい」

真里は言いながら、隆の顎にそっと手を滑らせる。
当然の事のように、隆は目を閉じて顔を寄せた。
頂上を少しすぎた当たりで、二人の距離はゼロになった。

(夜景を通り過ぎて、出口に近づくまで)
それまではずっとこのままでいようと。真里も隆も思っていた。

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