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モンロー効果
3
 真里と隆は、短期間に解決を求めるというか、何かが起こればすぐ次の朝には相手の元へ急ぐタイプだ。
だから真里も、初雪ざわめく登校路を逆走して、記憶を頼りにある場所へと向かっていた。

校門前の信号を右に、ケーキショップの角を曲がって、花屋のはす向かい。
いつか、泊まりに行った時に教えてもらった、自分ではない『ノジマ家』までの通り道だ。

きっとマフラーのない隆は寒い思いをしているはずだから。
という言い訳と建前を用意して、真里はひたすらに歩いていた。

本音は、もう一度会わなければならないと思っていたからだが。
ちなみに何故逆走しているかと言えば、校門からのルートでなければ、たどり着く自信がないからであった。

 花屋に差し掛かった瞬間の事だ。
「ま、真里君!? なんでこんな時間に、こんな所に!?」

やけに混乱している様子で、隆は真里へ声をかけた。
昨日の今日なもので、最悪シカトをされるのではないかと恐れていた真里だったが、これには正直拍子抜けだった。

そのまま、ずんずんとこちらへつき進んでくる隆を見ていたら、無性に目頭が熱くなった。
顔に手をやってみるが、目元はなんともない様子だ。

「真里君どうした!? つららが目に入ったとか!?」

慌てた様子で駆け寄ってきた隆に、真里は大丈夫、と親指を立てる。
どうせ嘘をつくなら、真似してしまおうと思ったのだ。

「つららが目に入るって事はそうそうないでしょ」
「ちょっと人が心配してるのになんだよその態度〜」

ほっとした様子で、隆に肘で軽くどつかれる。
数センチつもった雪で、革靴が楽しそうに音を奏でた。

真里は彼と一緒にいると、感情がおかしくなる。
いつぞや一瞬言っていた表現を借りるとするならば、サイボーグは隆と一緒にいると故障してしまうのだ。

 一歩踏み出すと消えてしまう雪を踏みしめながら、しばらく真里と隆は無言で歩いていた。
このままでは、何事もなく学校まで着いてしまうではないか。
そうだ、とカバンへ手を伸ばした真里は、タータンチェックのマフラーを隆へと手渡しながら弁明する事にした。
隆は無言で受け取ると、慣れた手つきで首へと巻き付ける。

「……真里君とおんなじニオイだ」
「そ、そうかな!? 一応家もって帰って洗濯させて貰ったんだけど、あっ、でもちゃんと表示守って洗濯したんだよ」

思わず、声が裏返ってしまった。
やましい気持ちなど一切なく、ただ少し、ぬくもりを感じてしまった罪悪感のようなものから、洗濯をしただけだ。
そしてこれでは、何の弁明だか全くわからない。

しかし隆は、全く別の事で照れているようだった。

「おんなじニオイって、俺なんか変態みたいじゃなかった?」
マフラーに顔をうずめながら、困ったように目尻を下げる。

まさかそんな素敵すぎる失言を隆がしていたとは。
自分の気持ちばかりでハラハラしていた真里はそんな事ない、と首を振るしかなかった。

「そう?嫌われるかと思って焦った」
そんな風に、冗談めいた言い方をするものだから。

「嫌う訳ないじゃん。告白した次の日に」

不意に。真里自身どこから出てきたのだろうかと思う程の意地の悪い一言が飛び出した。
これには隆も吹き出さずにはいられなかったようで、咳払いまじりにごまかすと、マフラーをといて茹で蛸になった顔を冷やした。

「まだ、俺が何を考えてるかわからない?」

真里は、思った以上に昨日置いてかれた事がこたえていたのかも知れない。
隆のその顔を覗きこんで追撃せんとするので、隆はいよいよそっぽを向くしかなくなるのだった。

「勘違いするって言ってるのに、わかんねー」
首まで赤くなっているのは、絶対にマフラーだけのせいではない。

それならば仕方がないなぁ、と言った様子で真里は後ろから声をかける。

「ならさ、わかるまで一緒にいようよ、ずっと」

ここがどこであるかを考えて、ささやくように言った声だったが。
それよりも小さい声で、隆は確かに、うんと頷いたのだった。

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