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モンロー効果
i'm always close to you
 野島真里が野島隆と初めての邂逅をしたのは、忘れもしない10数年前の事だ。

12年に一度の大きい祭りがある記念すべき年の事で、普段は滅多に行かない遠くの町まで新幹線に揺られて旅行した。

珍しく両親が揃っている事に真里は気分を良くして、うっかり自らの服装を好き勝手にされてしまったのは痛かったが。

幼い男児は、鬼に連れさらわれてしまうから、ある程度成長−今でいう小学校程度だろうか−までは女児と変わらない格好をさせるという風習が、野島家一族にはあった。

隆は幸い、健康そのものであったので難を逃れているようだったが、真里はあまり元気な子とは言えなかった。

母親も父親も、それにかこつけてお人形のように着飾らせたいだけだったかも知れないが。
 ともあれ、真里と隆は同じ年という事で、誕生日はそれほど近くはないものの一緒くたにお祝いをする事になるのだった。
白を基調にした和装に身を包んだ隆は、厚着のせいか苦しそうに足を投げ出していたが、真里を前にすると石のようにカチンコチンになっていた事を真里は覚えている。
当時の自分の格好と言えば、長めのサラサラヘアーにワンピースで、まさしく女児そのものであったのだ。
同じ年の男の子と遊んだことはもちろん無に等しかったが、それよりも格好を笑われる事が怖くて、話しかける事が出来なかった。

「……」

お互い、ぎこちなく隣同士に座らされて、退屈な思いをした事だろう。
真里にとっては、年賀状をくれる人に顔が追加される程度の認識であったが、それがまさかあんな再会に繋がるとは。
この時の二人には思いもよらない出来事なのだった。

 学校から家に帰り、干したままの洗濯物をしまい、夕食の支度をすませる。
ゲームのコントローラーを片手にする事数時間。

母親が先に帰宅し、ノジマ家では少し遅めの夕食が始まる。
ちなみに父親は、夜勤の職業であるため、日中遭遇する事はあまりない。
そんな中で、母親に告げられたのは『あの話』であった。

「ゆうちゃんが出張に行くらしくてね、マサの派遣をお願いされちゃったのよ」

ゆうちゃんとは、隆の母親の事だ。
お互い遠い親戚にも関わらず、こまめにトークアプリでやりとりしているらしい、という事を聞いた事があった。
そして、この家では一番稼ぎのいい母親に絶対の発言権があった。

 かくして真里は隆の家に泊まりに行くはめになったのだが、結果としてこれは非常にいい経験になった。
普段は一人でやっているゲームを、夜通し誰かと遊ぶ楽しさ。
ずっとやりたかった事を自然に許される環境。
初めて出会ったあの時、真里が隆と本当にやりたかった事は、こういう事だったのだ。
もしも、あの時恥ずかしがらずに声を掛けられていたら。
もしも、退屈そうなその手をとって外へ飛び出してしまえたら。
もっと年賀状が届く度に心が踊ったかも知れない。
もっと今、再会を喜べたかも知れない。

(……まぁ、知ってたら同じ学校は選んでいなかったと思うけど)

 これまでの真里は、人と出会っても距離間がわからない事が多く、あえて無口無表情を貫いてきたところがあった。
冷たいと委員長にからかわれても、それでも自分の本心は変わる事はないと信じ込んでいた。
それが、気にならない程度の存在であった筈の隆が変えてしまった。

もう真里は、隆なくしては昔の自分を思い出せないのだ。

(でもそれが苦じゃないなんて、よっぽどだよね)

放課後に向かって、時間が刻一刻とせまっていく。
腕時計を確認して、そっと呼吸を落ち着かせる。

この気持ちを告げたら、隆はどう思うだろうか。
笑ってくれるだろうか。
きっと怒るに違いない。
もしかしたら嘘だと突っぱねられてしまうかも知れない。

(……わからないと言うなら、わからせるまでだ)

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あきゅろす。
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