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モンロー効果
閑話休題
 三好葉月と中村五月は親友である。

入試の朝、駅前で迷子になっている五月を葉月が案内してからと言うもの、クラスが分かれてしまってからも、その友情は絶えず続いている。

二人には共通の趣味などがないので、会話があまり多い方ではなかったが、ある時を境に急激に接点が増したのだ。

「どっちの『野島君』もさぁ、見ててやきもきするよね」

ショートカットの少女・葉月は風紀委員の腕章をつついてため息をつく。
お下げ頭の少女・五月は整備点検のチェックシートを片手にうんうんと頷く。

「先生から頼まれた時はどうしようって思ってたけど、今はそれどころじゃないって思ってるよ、もう!」

葉月と五月の共通点……それは、十数年ぶりに再会した野島という遠い親戚同士を、応援している『同志』なのだ。

 「メイちゃんが整備委員やりたくないって言ってたのに、妙にまじめに参加してるし〜」
「葉月だって、最初は隆君暗キャラだし苦手って言ってたのに」
「それは言うの禁止!」
「でも野島君と会ってから、隆君すごく元気になったよね」

二人の昼休憩は、もっぱら真里と隆の報告会だ。
最近の二人はと言えば、メールアドレスを交換してからというもの気づかれていないと思っているのかしばしば端末をチェックしている様子が多かった。

葉月も五月も、その内容を知ることはなかったが、その時の真里と隆の反応と言えば、筆舌に尽くしがたいものだったようだ。

「隆君なんてお花がとんでるんじゃないかってくらいでさ」
「それを言うなら野島君も、表情は変わらないけどすごい早さでスマホチェックしてるよー!」

そうして彼女たちは、思い思いの思いにふけるのだ。
会話を終わる時は声を揃えてこう言った。

「あー、早くどうにかならないかなぁ」

 2学期に入りしばらくの時間が経った頃、真里と隆に変化が訪れた時も、葉月と五月は間近で見守っていた。
傍目に見ても原因は全くの不明。
しかし、徐々にすり減っていくかのような隆の精神状況と、真里の無に眉間のシワをプラスしたような表情には、二人とも心配以外の何者でもなかった。

「どうにかなって欲しいとは言ってたけど」
「これはねぇ……どうしちゃったんだろう」

廊下で密かな作戦会議をしていると、トイレから慌てて出てくる隆を見る事も一度だけあった。
葉月がそれを隆に指摘すると、少しだけ目尻を下げてサムズアップをするではないか。
五月が、整備委員の時に無理をしすぎて怒られた時も、親指を立てていると言っていたが、本当に彼は嘘をつく分かりやすい癖があった。

 五月はCクラスから真里に接触し、葉月はBクラスから隆の心のケアをはかる。
示し合わせた事などなかったが、日々のルーチンワークとなっていった。
整備委員会で隆とも会話できる分、五月の方がやる事が多いので、葉月は
『野島君も風紀委員に参加してくれればいいのに』と思わない事もなかったが。

「なんか、メイちゃんばっかり負担になってない?」

葉月がずっと気にしていた事を不意に口にすると、五月は慌てて手を振った。

「全然そんな事ないよ!私の方こそ葉月に付き合わせちゃって……」
「メイちゃんと一緒にいるの好きだから、気にしないで!」

思わず出てしまった一言だった。目の前でふるふると震える五月を前に、葉月は己の発言を振り返り赤面した。

「す、好きって、葉月」
「あ、あああ違うの!この好きっていうのは……違くないけど、でも違うのー!」

 そうなのだ。実は葉月はマイノリティ側の人間で、そういった意味あいで真里と隆を応援していた。
まさか五月もそうであるとは思っていなかったが、この反応を見るに遠からず想っていてくれたという事であろうか。

「葉月、今日一緒に帰ろうか」
「……!うん、メイちゃん」

疑惑や噂になった彼女達も、自らの想いを叶えて幸せになるのは時間の問題だろう。
隆と真里の露知らぬところで話しが進んだところで、閑話休題。

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